法務オートメーションとは?
成功のための3つのポイントと乗り越えるべきハードル
法務オートメーションとは何か?
法務オートメーションとは、これまで属人的な手作業に頼りがちだった法務業務から脱却し、ツールとルールを駆使して業務プロセスの自動化を実現する、新しい法務のあり方です。
企業活動では、契約審査、法律相談、コンプライアンス対応といった多種多様な法務案件が日々発生します。これらの法務案件の受付から処理、終結、そして将来の活用に至るまでの一連のプロセスと、それに関連する情報(相談内容、関連資料、コミュニケーション履歴、成果物など)を、仕組みによって自動的に集約・整理し、効率的かつ戦略的に取り扱う活動が実現可能となります。
これは、従来の「アナログ法務」が抱える課題を「オートメーション法務」によって解決するものです。
業務フェーズ | アナログ法務 | オートメーション法務 |
依頼受付 | メール・チャット・口頭に依頼が分散し、 手動で整理していた。 |
フォームやメールから一元的に依頼を登録し、 案件台帳を自動で生成する。 |
契約書審査 | 手動で過去案件を検索し、目視で比較するため、 履歴の管理が混乱していた。 |
過去案件をAIがレコメンドし、 文書比較や履歴管理を自動で行う。 |
進捗管理 | 担当者しか進捗状況を把握できていなかった。 | 進捗を自動で可視化し、関係者へのレポートも 自動で生成・通知する。 |
情報集約 | 案件情報がフォルダや各ツールに バラバラに保管されていた。 |
契約情報などを自動で集約し、 一元管理を実現する。 |
属人化リスク | 担当者への依存度が高く、引き継ぎが困難で、 対応漏れが発生しがちだった。 |
担当者に依存しない、 再現可能な業務体制を構築する。 |
判断の精度 | 判断に必要な情報が揃わず、 対応の遅延や不正確な判断に繋がっていた。 |
正確なデータに基づいた、 迅速で的確な判断が可能になる。 |
法務オートメーションは、単なるツールの導入に留まりません。
繰り返しの定型業務を仕組みで自動化・進化させることで、法務担当者が「人間にしかできない判断」という、より高度で戦略的な業務に集中できる体制を構築することを本質としています。
法務オートメーションの重要性と背景
現代のビジネス環境において、法務部門が担う役割はますます重要度を増しています。事業の複雑化、グローバル化、そして法改正の頻発化などを背景に、法務担当者は日々膨大な量の情報を取り扱い、多種多様な案件に対して迅速かつ的確な判断を下すことを求められています。
このような状況下では、個々の担当者の能力や経験だけに依存した「アナログ法務」には限界があります。案件に関する情報やファイルが様々なツールに分散し、自動で一元化する仕組みがないため、ナレッジの蓄積や活用が進まず、生産性が上がらないという課題に直面しているのです。
かつてソニー創業者の盛田昭夫氏はこのように述べています。
経営者のみた法務戦略……盛田昭夫(ジュリスト857号,1986年)より引用
この言葉は、経営トップが的確な意思決定を行う上で、法務部門によるリスク分析と専門的助言がいかに重要であるかを示しています。
法務部門がこの期待に応え、その機能を最大限に発揮するためには、情報を的確に把握し、迅速に分析・説明できる体制が不可欠です。法務オートメーションは、まさにこの体制を実現するための鍵となります。煩雑な情報整理や手作業から解放され、法務担当者が本来の専門的な分析や判断業務に集中できる環境を構築することで、企業全体の法的リスクを的確にコントロールし、事業の持続的な成長を支える重要な基盤となるのです。
アナログ法務でよく行われている管理手法6選とその課題
法務オートメーションの重要性を理解するために、まずは多くの企業で採用されている従来型の管理手法、すなわち「アナログ法務」の実態を見ていきましょう。100社以上の企業へのヒアリング結果に基づくと、法務案件の受付・管理ツールは主に以下の6つのカテゴリに分類されます。これらの手法は一定の役割を果たす一方で、オートメーション化されていないがゆえの課題を内包しています。
1. メール(Outlook、Gmail等)
- 方法: 担当者やメーリングリスト宛のメールで依頼を受け、その内容をExcelなどに手作業で転記して管理します。やり取りはメールスレッドで継続し、ファイルは共有ドライブなどに保管します。
- メリット: 導入のハードルが非常に低く、誰でも手軽に相談を開始できます。
- デメリット: 依頼情報の不足、手作業での転記漏れ・ミスのリスクがあります。過去案件や関連資料の検索に時間がかかり、情報が一元化されません。
2. チャット(Slack、Teams、Chatwork等)
- 方法: 法務相談用のチャンネルで依頼を受け、内容は別途Excelなどに記録します。やり取りはスレッドで行い、ファイルは共有ドライブやチャット上に保管されます。
- メリット: 迅速で気軽なコミュニケーションが可能です。
- デメリット: 情報が流れやすく、重要な依頼が見逃されるリスクがあります。ファイルがチャットとドライブに分散し、一元管理が困難です。秘匿性の高い相談はDMで行われ、情報が属人化する懸念もあります。
3. プロジェクト管理ツール(Backlog、Jira、Notion、Kintone等)
- 方法: 依頼者がタスクを作成し、その中でやり取りやファイル保管を行います。
- メリット: 案件情報を一つの場所に集約しやすく、ステータス管理も比較的容易です。
- デメリット: 依頼者側にもツールの習熟が求められ、全社的な導入・教育コストがかかります。法務特有のバージョン管理など、細かいニーズに対応しきれない場合があります。
4. ワークフローツール(intra-mart、アジャイルワークス、ジョブカン、バクラク等)
- 方法: 申請機能で依頼を受け付け、定義された経路で処理を進めます。
- メリット: 申請フォームにより依頼情報を標準化でき、承認ルートをシステムで管理できます。
- デメリット: 受付後の双方向のコミュニケーションには不向きで、やり取りや検討資料は結局メールなど別の場所で行われがちです。結果として情報が分散します。
5. 社内システム(内製システム、SharePoint等)
- 方法: 自社で開発した専用システムやフォームで受付・管理します。
- メリット: 業務プロセスに合わせて自由に機能を設計できる可能性があります。
- デメリット: 構築や改修に専門知識と他部署の協力が必要で、軽微な変更にも時間と手間がかかります。検索性が低く、ナレッジ活用が進まないケースもあります。
6. フォーム(Microsoft Forms、Googleフォーム等)
- 方法: オンラインフォームで依頼を受け付け、回答をスプレッドシートなどに出力して台帳とします。
- メリット: 導入が容易で、受付時の情報収集を標準化する第一歩として有効です。
- デメリット: 受付に特化しているため、その後の進捗管理、コミュニケーション、ファイル共有は別のツールで行う必要があり、情報が分散して一元管理は困難です。
これらの「アナログ法務」の手法は、情報の一元管理、業務プロセスの自動化、ナレッジの蓄積・活用といった点で構造的な課題を抱えており、これこそが法務オートメーションが解決しようとしている核心部分です。
なぜ今「法務オートメーション」が不可欠なのか
現代のビジネス環境は変化のスピードが速く、企業活動はますます複雑化しています。このような状況下で、法務部門の業務、特に法務案件の管理は多くの課題を抱えています。
この課題の根源は、主に3つの「多様性」が複合的に絡み合うことにあります。
- 法務案件の多様性: 契約審査、法律相談、訴訟対応、M&Aなど、取り扱う案件の種類は多岐にわたります。
- 依頼部門の多様性: 営業、開発、人事、マーケティングなど、社内のあらゆる部門から日々相談が寄せられます。
- 依頼ツールの多様性: 従来のメールに加え、TeamsやSlackといったチャットツール、各種ワークフローなど、依頼の窓口が分散しがちです。
これらの「多様性」が絡み合い、情報が散逸することで、対応状況の把握が困難になり、過去事例の検索も非効率になります。結果として、法務担当者の業務負荷は増大し、迅速かつ適切な法的判断への遅れに繋がるリスクがあります。
コンプライアンス遵守の社会的要請が一層強まり、ビジネススピードの加速が求められる「今」だからこそ、この煩雑さを解消し、効率的で質の高い法務機能を実現するための「法務オートメーション」に注目し、そのあり方を見直すことが急務と言えるでしょう。
法務オートメーションを成功させるための3つのポイント
法務オートメーションを成功に導くためには、単にツールを導入するだけでなく、戦略的な視点に基づいた仕組み作りが不可欠です。そのための重要なポイントが3つ挙げられます。
1.事業部門の業務フローとの親和性
法務部門だけでなく、依頼者である事業部門にとっても使いやすいことが重要です。事業部門の担当者がアカウント作成や新しいツールの習熟を強いられることなく、従来通りのメールやチャットといった使い慣れた方法で依頼できる仕組みが理想的です。これにより、全社的な導入のハードルを下げ、協力を得やすくなります。
2.タイムリーで透明性の高いステータス管理の自動化
法務案件の進捗は、関係者にとって大きな関心事です。誰がどの案件をいつまでに対応するのかといったステータスを自動で更新し、必要に応じて事業部門へ進捗レポートを自動通知する仕組みが重要です。これにより、問い合わせ対応の手間を削減し、関係者間の認識の齟齬を防ぎます。
3.戦略的なナレッジマネジメントの自動化
これが最も重要なポイントです。案件の受付から終結までの全ての情報(契約書の全バージョン、関連資料、コミュニケーション履歴など)を、案件単位の「パッケージ」として自動的に一元化し、蓄積することが求められます 292929。構造化して蓄積されたナレッジは、AIによる自動回答や類似案件のレコメンドなどに活用され、業務の効率化、判断の迅速化、品質の標準化に直結します。これにより、担当者の経験に依存しがちな業務を組織知へと転換し、法務部門全体の能力を底上げすることができるのです。
法務オートメーション導入の5つのハードルと克服法
法務オートメーションの導入には、いくつかのハードルが存在します。しかし、適切なソリューションを選ぶことで、これらを克服することが可能です。
1. 事業部門からの反発
- 課題: 新しいツールの利用を事業部門に強いると、抵抗感から導入が進まない。
- 克服法: 事業部門はアカウント不要で、メールやSlackなど既存のツールをそのまま使えるハブ型のシステムを選ぶことで、利用のハードルを大幅に下げることができます。
2. 既存ツールとの競合・棲み分け
- 課題: 社内には既に多くのSaaSが導入されており、機能の重複や連携の複雑さが懸念される。
- 克服法: 個別のツールを置き換えるのではなく、既存のメール、チャット、電子契約サービス、ワークフローなどとシームレスに連携し、情報を集約するハブとして機能するプラットフォームが有効です。
3. セキュリティの確保
- 課題: 法務案件の機密情報をクラウドで扱うことへの懸念。
- 克服法: ISO27001などの国際的なセキュリティ認証を取得し、通信の暗号化や多層防御といった高度な対策を講じているサービスを選ぶことが重要です。
4. 過去データの移行
- 課題: 既存のシステムや共有フォルダに蓄積された大量の過去案件データをどう移行するか。
- 克服法: 導入支援の一環として、データ移行の設計やサポートを提供してくれるベンダーを選ぶことで、スムーズな移行が可能になります。
5. 費用対効果(ROI)の説明
- 課題: 業務効率化やリスク低減といった効果を定量的に示し、投資対効果を説明するのが難しい。
- 克服法: 導入企業の実例を参考に、具体的な工数削減効果(例:年間1万件以上の手動ファイル格納作業がゼロになった)や、実装期間の短縮(例:1/10以下に短縮)といった数値を提示することで、説得力のある説明が可能になります。
法務オートメーションを本格化するタイミングは?
企業の成長フェーズや法務案件の取扱量によって、適切な管理のあり方は異なります。
事業の初期段階で、月間の法務案件数が10件未満と比較的少ないうちは、既存のメールやExcel、チャットツールでもある程度対応できるでしょう。
しかし、事業が拡大し、月間の法務案件数が恒常的に10件を超え、法務専任者の採用が決まるような段階に至ると、状況は変わります。このタイミングからは、個人任せのアナログな管理では限界が見え始め、対応漏れのリスクや業務非効率が顕在化します。組織としての法務リスク管理と生産性向上の観点から、本格的な法務オートメーションの導入を検討すべき重要な時期と言えるでしょう。
OLGAによる法務オートメーション
法務オートメーションを実現する具体的なソリューションとして、GVA TECHが提供する法務オートメーションシステム「OLGA」(オルガ)があります。OLGAは、法務案件に関するあらゆる情報を一元化し、業務プロセスを自動化するために設計されたシステムです。
そのプロダクトビジョンは、単に「すべての法務業務を自動化する」ことではありません 。むしろ、「人間にしかできない判断」に法務担当者が集中できるよう、「繰り返しの業務を仕組みで自動化し、再現性ある運用に進化させること」を本質としています。
業務ツール群のハブとなり、情報を一元化
OLGAの最大の特長は、法務担当者だけでなく、依頼者である事業部門の利便性も徹底的に追求している点にあります。
日常業務で利用される様々なツールが案件ごとに情報を分散させ、業務を非効率にする一因となっていました。OLGAは、これらの独立したツール群の中心となる「ハブ」として機能し、バラバラだったツールと情報を一気通貫で自動化します。
豊富な外部サービス連携
- アドレス帳: Microsoft Entra ID、Google Workspace
- 顧客管理: Salesforce
- メール・チャット: Outlook、Gmail、Teams、Slack
- ファイル・文書管理: Word、Excel、PowerPoint、PDF
- 電子契約: クラウドサイン、DocuSign、GMOサイン
- ワークフロー: バクラク申請、イントラマートなど
これにより、事業部門の担当者はアカウント作成も不要で、使い慣れたメールやチャットから従来通り依頼できます。一方で法務部門側では、それらの依頼や関連情報がOLGAに自動で集約され、案件単位のパッケージとして整理されるため、情報が散逸することはありません。
「3つの自動化」で業務プロセスを革新
OLGAは、法務業務のコアプロセスを「3つの自動化」によって支えます。
1.依頼受付の自動化
メールやフォームからの依頼内容を読み取り、案件登録や案件台帳の作成を自動で行います 。担当者の自動割り振りや、過去のナレッジに基づくAIによる自動回答も可能です。これにより、依頼の初期対応にかかる手間が大幅に削減されます。
2.案件・契約管理の自動化
誰がどの案件に対応しているかというステータスの自動更新や、関係者への自動進捗レポートの生成・通知を行います。さらに、電子契約サービスと連携して締結済み契約を自動で取り込んだり 、アップロードされた契約書PDFから取引先名・契約日などの情報を自動で抽出し、契約管理台帳を生成したりすることも可能です。契約終了日が近づくと、更新通知が自動で送られるため、更新漏れのリスクも防ぎます。
3.ナレッジ活用の自動化
蓄積されたデータから、AIが類似案件や同一取引先、過去の対応方針などをレコメンド・自動回答します 。ワンクリックで新旧の契約書バージョンを比較したり 、文書レビューをAIがサポートしたりすることもできます。これにより、これまで担当者の記憶や経験に頼りがちだった業務が、組織の共有資産へと変わります。
OLGAは、このようにバラバラに対応が迫られていた法務案件を整理・統合し、定型業務を自動化することで、法務担当者を情報の転記や検索といった作業から解放します。そして、変化とスピードに強い、高生産性の法務体制の実現を支援し、担当者がより高度で戦略的な業務へシフトすることを可能にするのです。
法務オートメーションの成功事例
実際に法務オートメーションを導入し、大きな成果を上げた企業の事例をご紹介します。
株式会社エムティーアイ
- 課題: 年間1万件以上のExcel管理・ファイル格納作業が発生。Microsoft Formsのメンテナンスにも約10時間/件の工数と1ヶ月の期間を要していた。
- 導入効果: OLGA導入により、手動でのExcel管理・ファイル格納工数がゼロに。過去案件の検索時間も圧倒的に効率化された。法務部門内でフォーム作成が可能になり、実装工数と期間は1/10以下に短縮された。
ラクスル株式会社
- 課題: 事業の急成長に伴いSlackでの依頼が散在し、情報管理に課題があった。
- 導入効果: 案件受付チャネルを一本化し、関連情報を集約。ステータスの可視化や過去案件の検索効率が向上し、事業部との連携も強化された。
住信SBIネット銀行株式会社
- 課題: Excelでの案件管理に限界を感じ、情報共有の非効率性やナレッジが蓄積しにくい点に課題があった。
- 導入効果: 案件情報と関連資料の一元管理が可能となり、検索性の向上を通じて業務効率が大幅に改善。ナレッジ共有も促進された。
ネスレ日本株式会社
- 課題: 多様な法務案件をメールやExcelで管理しており、情報共有のあり方が課題だった。
- 導入効果: 案件の進捗状況が可視化され、チーム内や事業部との情報共有が円滑化。業務効率の向上を実感している。
郵船ロジスティクス株式会社
- 課題: メールベースでの管理による情報散逸や、海外拠点とのナレッジ共有が課題だった。
- 導入効果: 案件情報の一元管理と可視化を実現。国内外の拠点を含むグループ全体のナレッジ共有基盤を構築し、ガバナンス強化にも繋げている。
これらの事例は、法務オートメーションが単なる夢物語ではなく、情報の一元化、業務プロセスの効率化、そして組織的なナレッジの蓄積・共有を実現する、実践的なソリューションであることを示しています。
法務オートメーション「OLGA」の導入相談
本記事では、法務オートメーションの基本的な考え方や、それを実現するOLGAの具体的な機能についてご紹介しました。 皆様の法務業務の生産性向上、そして事業成長を支える体制構築の一助となれば幸いです。
またGVA TECHでは、法務オートメーション「OLGA」のご提供に留まらず、ヒアリングを通じた課題の整理から、貴社の状況に合わせた柔軟な導入支援、そして運用開始後の伴走サポートまで、一気通貫でご支援しています。
もし今、法務案件管理の煩雑さや情報の属人化、ナレッジ活用に課題を感じていらっしゃるようでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。
詳しくは資料をご覧ください。
参考文献・記事
- 「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」(2019年 経産省)
- 「ジュリスト1986年4月1日号No.857」(有斐閣)
- 「知識創造企業」(1996年 東洋経済新聞社)
- 「企業法務におけるナレッジ・マネジメント」(2021年 商事法務)
- 「リーガルオペレーション革命」(2021年 商事法務)
- 「会社法務部 実態調査の分析報告」(2022年 商事法務)