法務コラム
ネスレ日本のケーススタディから学ぶ リーガルテックの究極の活用方法とは
投稿日:2025.07.30
※本記事は、2024年2月22日(木)に開催した「ネスレ日本のケーススタディから学ぶ リーガルテックの究極の活用方法とは」セミナーのセミナーレポートです。
2024年2月、ネスレ日本株式会社 法務部の美馬様、池田様をスピーカーにお迎えし、法務DXに関するセミナーが開催されました。本レポートでは、世界最大の食品会社であるネスレの日本法人において、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成される法務部が、いかにして「ビジネスの成功を実現させる」というパーパスを追求し、リーガルテックを活用して業務改革を推進しているのか、その具体的な取り組みと成功の秘訣をご紹介します。
目次
登壇者紹介:現場経験を強みに変えるネスレ日本 法務部
今回のセミナーでは、ネスレ日本 法務部の美馬様、そしてユニークな経歴を持つ池田様のお二方からお話を伺いました。
- 美馬様: 経済学部卒業後、企業就職を経てロースクールへ進学。現在はネスレ日本 法務部を率いる。
- 池田様: 2010年にネスレ日本へ入社後、工場の製造・品質保証部門に配属。その後、製品パッケージの表示などを担当する食品法規部を経て、2018年に法務部へ。法務部配属後に本格的に法律を学び、ITを活用した業務改善も担当
特に池田様の経歴は、ネスレ日本 法務部の大きな特徴である「多様なバックグラウンド」を象徴しています。法律の専門知識だけでなく、工場の現場や製品開発の視点を持つメンバーが集まることで、よりビジネスに深く寄り添った法務機能を実現しています。
第1部:法務DXの目的は「ビジネスの成功」のための時間創出
セミナー前半では、美馬様よりネスレ日本の企業特性と、法務部がDXを推進する上での哲学が語られました。
ネスレ日本の「属性」と法務部に求められる役割
ネスレ日本は、非公開会社であり、外資系の食品会社です。そのため、上場企業のような厳格なコーポレートガバナンス・コードへの対応や、アクティビスト株主への対応は求められません。美馬様はこれを「比較的緩い規制のもとでビジネスを行っている」と表現します。
このような環境では、経営陣が法務部に求めるものは、守りの法務だけではありません。「ビジネスの成功を実現させる」というパーパスを掲げ、ビジネスに深く関与し、その成功を後押しすることが期待されています。
ここが落とし穴!契約書審査で絶対押さえるべき3つのポイント
ビジネスに深く関与するためには、どうしても時間が必要です。その時間を捻出するための手段として、ネスレ日本 法務部が着目したのがDX(デジタルトランスフォーメーション)でした。
美馬様は、DX推進における重要な考え方として、以下の3点を挙げました。
- とにかく色々と考え抜く: 部門の目的は何か、そのために何が必要か、最適なツールや業務フローは何か、経営陣をどう説得するか。これらを個別の問題としてではなく、すべて繋がった一つのものとして一体的に検討することが重要です。
- 理想の業務フローから考える: 既存の業務フローに無理やりツールを押し込むと、かえって非効率になることがあります。ツールありきではなく、「理想のツールを前提とした理想のフロー」を描き、それに合わせてツールを選定し、時には社内ルール自体を変えていく視点が成功の鍵です。
- とにかく使ってみる: 営業担当者の話を聞くだけでなく、無料トライアルなどを活用し、チーム全員で実際にツールを使ってみること。使ってみることで初めて、自社に合った意外な活用法が見つかることもあります。
第2部:OLGA導入で実現した「年間350時間」の工数削減
セミナー後半では、池田様より、案件管理ツール「OLGA」の導入を例に、具体的な業務改善プロセスが紹介されました。
導入前の課題:散在する依頼と情報の属人化
OLGA導入前、ネスレ日本 法務部は以下のような課題を抱えていました。
- 依頼方法の散在: メール、電話、チャット、対面など依頼方法がバラバラ。
- 事前情報の不足: 背景説明のないまま契約書案だけが送られてくることも多く、ヒアリングから始める必要があった。
- 情報の属人化: 担当者ごとに案件情報が閉じてしまい、部内での情報共有や相談に手間がかかっていた。
これらの課題を解決するため、約3年間で10社ほどの案件管理サービスを検討したものの、使い勝手やコスト面で折り合いがつかず、導入には至っていませんでした。
OLGA導入後の変化と効果
そんな中、SNSで存在を知った「OLGA」のトライアルを経て、2023年11月に本格導入を決定。導入後、業務フローは劇的に改善されました。
- 依頼受付の一元化: OLGAの依頼フォームに受付を一本化。法務部が必要とする情報が網羅されているため、事前情報の質と量が安定し、ヒアリングの手間が削減されました。
- スムーズな情報共有: 全ての案件情報がOLGA上に集約され、誰でも担当外の案件を確認可能に。担当者が急に休んだ際のフォローも容易になりました。
- 進捗管理の自動化: 案件ボードで各案件のステータスが一目瞭然となり、個別の進捗管理が不要になりました。
これらの改善により、ネスレ日本 法務部および事業部全体で年間約350時間の工数削減を見込んでいます。これは、1案件あたり約30分の時間削減効果を積み上げた計算です。時間という数字に表れる効果だけでなく、「新規案件により早く着手できる」「ヒューマンエラーが軽減される」といった、ビジネスのスピードと質を向上させる効果も生まれています。
導入成功の工夫:徹底したユーザー目線
OLGAの導入を成功させた背景には、徹底した準備がありました。
- 依頼フォームの作り込み: 依頼者がマニュアルを見なくても直感的に申請できるよう、項目を熟考。あえて依頼者に契約期間を入力させることで、依頼前の内容確認を促すといった工夫も凝らしました。
- ユーザー目線でのトライアル: 法務部内で依頼者役と担当者役に分かれ、実際の業務を想定したロールプレイングを実施。使いにくい点があればGVA TECHにフィードバックし、改善を依頼しました。
まとめ
ネスレ日本 法務部のDX事例から見えてきたのは、「何のためにDXを行うのか」という目的意識の重要性です。彼らにとってDXは、単なる効率化ツールではなく、「ビジネスの成功を実現させる」というパーパスを達成するための時間を創出する、極めて戦略的な一手でした。
現場経験を持つ多様なメンバーが、理想の業務フローを徹底的に考え抜き、ユーザー目線でツールを選定・導入する。この地に足のついたアプローチこそが、ネスレ日本 法務部の改革を成功に導いた要因と言えるでしょう。本セミナーは、法務部門がより戦略的な存在へと進化していくための、多くのヒントに満ちた内容でした。
▼本セミナーのアーカイブ動画はこちらからご視聴いただけます。
https://olga-legal.com/seminar/nestle-legal-tech-case-study20240222/