投稿日:2025.12.04

契約書のレビューは、ビジネスにおける最も重要なリスク管理のひとつです。

契約書レビューで重要なのは、リスクの見落としを防ぎながら、自社に不利益となるポイントを見極め、適切な着地点を導き出すことです。そのためには条文の意味を理解し、レビューすべき項目を体系的に押さえておく必要があります。

この記事では、契約書レビューの基礎知識から、実務で役立つポイントまで分かりやすく整理して解説します。

目次

契約書レビューとは?まず押さえるべき基本と目的

契約書レビューとは、取引を文書化した契約書の内容を、法令や自社の事業リスクに照らして精査し、自社に不利益が生じないよう確認・修正するプロセスです。

ビジネスの取引は、ほとんどの場合「契約書」という書面を通じて成立します。そのため、契約内容を正しく理解し、自社に不利益が生じないように確認する作業が欠かせません。ここでは、契約書レビューの全体像と基本的な考え方を整理します。

契約書レビューの目的

契約書レビューの目的は、単に文章の誤りを見つけることではありません。重要なのは、自社の立場・責任・リスクを正確に把握し、適切な条件で合意を形成することにあります。内容が曖昧なまま契約すると、後から大きなトラブルにつながり、事業の推進にまで影響を及ぼす可能性があります。

レビューが必要となる典型的なシーン

契約書レビューは、取引開始前だけに発生するものではありません。新規契約、既存契約の更新、契約条件の変更、グループ会社との締結、さらには自社側で草案を作成したときなど、さまざまなタイミングで必要となります。企業規模が大きくなるほど、レビュー機会は自然と増加します。

契約書レビューの基本プロセス

契約書レビューは、いきなり細かな条文の読み込みから始まるわけではありません。実務では、契約の背景を整理し、取引全体の目的を把握したうえで内容を確認していくことが重要です。ここでは、契約書レビューの一連の流れを順を追って見ていきます。

依頼の受付と情報整理

レビューは、まず事業部から依頼を受けるところから始まります。契約書そのものだけでなく、取引の目的、スケジュール、役割分担、リスクとなり得るポイントなど、背景情報を丁寧にヒアリングしておくことが欠かせません。情報不足や前提を誤った状態でレビューを進めると、どれだけ条文を丁寧に読んでも適切な判断につながらないため、最初の情報整理がレビュー全体の精度を左右します。

条文の確認とリスク抽出

背景が整理できたら、契約書の条文を読み込み、自社に不利な点や曖昧な表現、想定外の責任範囲がないかを確認します。取引内容に照らして整合しているか、法令や自社ポリシーと矛盾がないかといった視点も必要です。曖昧な箇所があれば、後の交渉でトラブルにならないよう、理由を整理しながら修正案を検討します。

修正案の作成と社内調整

抽出したリスクを踏まえ、実務や法律の観点から妥当と思われる修正案を作成します。必要に応じて事業部とすり合わせを行い、交渉方針を固めていきます。事業部の事情を踏まえつつ、過度なリスクを負わないラインを見極めることが重要です。

相手方との調整・交渉

修正案をもとに相手方とやり取りを行い、双方が合意できる表現に落とし込みます。法的リスクを避けつつ、取引のスピード感を損なわない対応が求められます。意見が対立した場合は、背景事実を明確にした上で、代替案を示しながら合意を図ります。

合意後の締結と契約管理

条文の調整が完了し、双方が合意したら締結手続きへ移ります。締結後は契約内容の管理も重要で、契約期間や更新条件、義務の履行状況などを適切に把握しておくことが、後々のトラブル回避につながります。レビューは締結までがゴールではなく、契約管理とセットで取り組むことが大切です。

契約書レビューでチェックすべき8つの基本ポイント

契約書レビューで最も重要なのは、限られた時間の中で「どこを重点的に見るべきか」を把握しておくことです。契約書は細かい表現の積み重ねで構成されていますが、チェックの軸は大きく8つに整理できます。ここでは、実務で抜け漏れなく確認すべき必須ポイントを順に見ていきます。

1. 契約当事者と基本情報

まず確認すべきは、契約を結ぶ相手方が正しく記載されているかどうかです。会社名、住所、代表者名などが誤っていると、契約そのものの効力に影響する場合があります。また、グループ会社のどの法人と締結するのか、取引の主体を明確にしておくことも重要です。

2. 契約期間と更新・終了条件

契約期間がいつからいつまでなのか、自動更新の有無、途中終了の条件がどうなっているかは必ず確認します。更新や解約の条件が曖昧なまま進めると、想定外の期間拘束や費用負担が発生することがあります。

3. 業務範囲・成果物・提供する役務の内容

契約の中心となる業務内容が、実際の取引イメージと合致しているかを確認します。成果物の定義、納品形態、スケジュール、役割分担などが曖昧だと、後になって「どこまでが契約の範囲か」で揉める原因になります。

4. 責任範囲(損害賠償・免責)

損害賠償の上限、対象となる損害の範囲、免責されるケースなどを慎重にチェックします。特に相手方作成の契約書では、自社に過度な責任を負わせる内容が含まれていることもあり、交渉上の重要なポイントになり得ます。

5. 対価・支払条件

金額だけでなく、支払条件や請求書の扱い、検収の基準なども確認が必要です。検収のタイミングが曖昧なままだと「いつから支払義務が発生するのか」が不明確になり、トラブルの原因になります。

6. 知的財産の帰属

制作物・成果物の著作権や特許・ノウハウなどの扱いについても重要なチェックポイントです。権利の帰属が不明確だと、後に利用できる範囲の解釈で争いにつながる可能性があります。

7. 守秘義務・個人情報の取り扱い

秘密情報や個人情報の範囲、管理方法、利用目的などの条項を確認します。情報漏えいリスクが高まっている昨今、データの扱いに関する条文は慎重に精査する必要があります。

8. 紛争解決方法(準拠法・裁判管轄)

万が一トラブルが生じた場合に、どの法律に基づき、どの裁判所で争うのかが明記されているかを確認します。国際取引やグループ企業間取引では特に注意が必要です。

契約書レビューの質を上げる実務テクニック

契約書レビューは経験によって精度が向上する一方、仕組みを整えることで「誰が担当しても一定の品質を保てる状態」をつくることができます。ここでは、契約審査の質を上げ、効率性も高めるための実務テクニックを整理します。

レビュー前に必要な情報をそろえる仕組みづくりを行う

契約書そのものを読む前に、まず取引の背景情報を整理しておくことが欠かせません。背景理解が浅いまま条文を読み始めると、重要なリスクや前提のズレに気付けないまま進んでしまう可能性があります。

法務部側で契約類型ごとに必ず把握しておきたいポイントをあらかじめ設定し、依頼時にその情報を入力してもらう仕組みをつくることで、不明点の確認に時間を取られず、条文精査に集中できます。

この「事前情報の整理」はレビュー全体の質を左右するため、仕組みとして固定化するようにしましょう。

自社基準(プレイブック)を作成して判断を標準化する

契約レビューに強い企業は、担当者の経験に依存せず、組織として一貫した判断ができる体制を整えています。その中核となるのが 契約審査基準(プレイブック) の整備です。

プレイブックとは、条文ごとの審査基準、修正方針、代替条文案、受け入れの可否ラインなどを明文化した“契約審査マニュアル”のことです。
プレイブックがあると、契約書を読む際の判断基準が明確になり、レビューのスピードと精度が大きく向上します。特に新人や異動者が担当する際にも、基準に沿って判断できるため、教育コストの削減にもつながります。

組織としてナレッジを蓄積する体制を整備する

契約レビューは属人化しやすい業務であり、担当者個人の経験や判断に依存すると、組織としての“再現性”が保ちづらくなります。そのため、レビューの最終アウトプットだけでなく、どのような検討過程を経てその結論に至ったのかというプロセス情報まで含めて体系的に蓄積しておくことが重要です。特に以下の情報は、体系的に残しておくことで、組織全体の効率化に大きく貢献します。

  • 過去の契約書のバージョン(版管理)
  • 相手方との交渉履歴
  • 社内での議論、意思決定過程
  • 例外対応の理由
  • 受け入れた代替条文とその背景

こうした「背景の情報」まで蓄積されていれば、次回レビュー時の判断が早くなるだけでなく、担当者が異動・退職した際のナレッジ断絶を防止できます。逆にプロセスが残っていないと、当時の担当者しか意図を説明できず、訴訟・内部監査・コンプライアンス説明などの場で会社としての一貫した説明ができないという重大なリスクにつながります。

ナレッジがきちんと管理され、検索しやすい状態に整備されていることで、レビュー品質は着実に向上し、抜け漏れも減り、法務全体の“守りの強さ”が大幅に高まります。

契約書レビューを外部弁護士に依頼する場合の費用

高度な法的判断や紛争リスクが高い案件では、外部弁護士によるリーガルチェックが有効な選択肢になります。特に国際契約、複雑な知財の扱い、大規模プロジェクト、過去にトラブルがあった委託契約などは、専門家の知見が欠かせません。

一方で、外部の弁護士に依頼する以上、どの程度の費用がかかるのか、どこまで依頼すべきかは事前に把握しておきたいポイントです。

契約書レビューを弁護士に依頼した場合の費用感

弁護士へのリーガルチェックの費用は、契約の内容や事務所ごとの料金体系によって変動します。一般的な売買契約書や賃貸借契約書など、比較的シンプルな類型であれば、1件あたり数万円程度から対応してもらえることが多いとされています。一方で、取引基本契約書や業務委託契約書のように、事業内容の理解や個別のアドバイスが不可欠な契約では、工数に応じて費用が高くなる傾向があります。

費用を左右する主な要素

リーガルチェックの費用を大きく左右するのは、「どこまでを弁護士に任せるか」という対応範囲です。契約書全体の作成からサポートを依頼するのか、完成済みの案文をチェックだけしてほしいのか、一部の条文だけ法的な観点から見てほしいのかによって、必要な時間と費用は大きく変わります。外国語の契約書や専門性の高い分野(IT、医療、金融など)では、より高度な知識が求められるため、費用も相応に上がるケースが一般的です。対応スピード(至急対応かどうか)も、見積もりに影響することがあります。

単発依頼・部分依頼・顧問契約の使い分け

リーガルチェックをどのような形で依頼するかも、費用対効果を考えるうえで重要です。スポットで1件ごとに依頼する方法のほか、自社で一次チェックを行い、リスクが高い部分だけを弁護士に部分的に見てもらう形を取ることで、コストを抑えつつ専門性を確保できます。

弁護士判断を要する契約書レビューが常に一定数発生する企業であれば、顧問契約を結び、月額の範囲内でリーガルチェックを含めた相談に対応してもらう形の方が、トータルでは割安になる場合もあります。

契約書レビューを弁護士に任せるかどうかは、「契約の重要度」「自社法務のリソース」「予算感」のバランスで決めることになります。あらかじめ費用感と依頼範囲のパターンを整理しておくことで、「すべてを丸投げしてコストが膨らむ」あるいは「必要な場面で専門家を使えずリスクを抱え込む」といった極端な状態を避けやすくなります。

自社の体制や契約件数を踏まえ、無駄のない依頼方法を検討していくことが大切です。

関連記事:弁護士にリーガルチェックを依頼する費用は?単発・顧問契約の料金相場を解説

AIを活用した契約書レビューの効率化

光学文字認識(OCR)による文字データの読み取りや、自然言語処理技術の発達に伴い、契約書テキストを自動解析するAI契約書レビューツールを活用する企業が増えています。

AIは損害賠償や解除、秘密保持などリスクの高い条文を素早く抽出し、弁護士基準や自社基準(プレイブック)と照合して注意点や修正候補を提示できるため、時間・コスト削減と人為的ミスの軽減に大きく貢献します。

AI契約書レビューツールの主な機能

ここでは、代表的な機能を目的別に整理しながら紹介します。

リスク検知・キーワード抽出

AIが契約書全文を解析し、「損害賠償」「解除」「秘密保持」「準拠法」などの主要条項や、高リスク語句を自動で抽出します。
また、条文構造の不自然さや文言の欠落も検知するため、ミスや見落としを大幅に減らせます。

メリット:
・チェック漏れ防止
・レビューの着眼点が瞬時に可視化
・一次チェックが短時間で完了

条文比較・差分検出

過去契約や自社の標準条文と比較し、どこが異なっているかを自動で差分表示します。
改変されやすい箇所や、相手方が挿入した文言を正確に把握できるため、レビュー効率が大幅に向上します。

メリット:
・修正漏れの防止
・相手方による不利な変更の早期発見
・比較作業の工数削減

修正文案の提案・代替案提示

弁護士監修のデータベースや自社プレイブックを参照し、リスクが高い条文に対して修正文例や代替案を提示します。
新人や非専任者でも一定品質のドラフトを作成でき、レビュー品質が安定します。

メリット:
・スピーディーに修正案を作成
・判断基準の標準化
・担当者の経験値に依存しない体制づくり

ナレッジ参照・条文解説の提示

条文の背景やありがちなトラブル、業界でよく使われる表現などの“解説情報”を同時に表示。単に「危ない」と指摘するだけでなく、「なぜ危ないのか」を理解しながらレビューできます。

メリット:
・担当者の理解を深める学習効果
・教育コストの削減
・コミュニケーションの質が向上

テキスト抽出(OCR)と構造化

PDFやスキャンデータからAIがテキストを自動抽出し、条文ごとに構造化します。紙契約の多い企業でも、AIレビューを止めることなく利用できます。

メリット:
・紙契約が残っている企業でも活用可能
・文字起こしの手作業が不要に

AI契約書レビューツールは業務の効率化に非常に効果的な一方で、交渉戦略や個別事情を踏まえた最終判断は人が担う必要があります。AIを現実的に活用できる領域を理解し、自社の審査フローの中にうまく組み込むことが、効率化とリスク管理を両立させる鍵となります

関連記事:AIリーガルチェック(契約書レビュー)はどこまで使える?特徴や導入事例を解説

「OLGA」を活用して、契約書レビューの生産性向上を実現

契約書レビューの効率化を進めるには、仕組みとして“再現性のあるレビュー体制”を整えることが欠かせません。

GVA TECHが提供する「OLGA」は、依頼受付から審査、ナレッジ蓄積までを一元化し、契約書レビューの生産性を大きく引き上げる機能を備えています。

OLGAで実現できること

法務相談・審査依頼の一元化

OLGAでは、法務が自由にカスタマイズできる専用フォーム を設け、依頼時に必要な背景情報・契約類型ごとの確認事項を漏れなく取得できるため、初動から精度の高い審査をスタートできます。

加えて、マネージャーはOLGA上で各メンバーの案件量・進捗をリアルタイムに把握でき、負荷を均等化したアサインが可能となります。属人的な“誰に任せるか問題”が解消され、法務チーム全体の生産性が底上げされます。

ナレッジの集約とテンプレート化

契約審査の質を安定させるうえで欠かせないのが、レビュー知見の体系的な蓄積です。OLGAでは、条文ごとの修正文例や過去の指摘傾向はもちろん、自社の審査基準(プレイブック) をそのままナレッジとして管理できるため、担当者が変わっても判断がブレにくい体制を整えられます。

さらに、契約書のバージョン管理や、相手方との交渉履歴、法務と事業部の社内コミュニケーション情報までワンストップで蓄積できます。レビューの背景・意図・判断理由が自然とOLGA上に残るため、将来のレビューや新人の立ち上がりにも大きな資産として活用できます。

契約書レビューは「体制づくり」で結果が変わる

契約書レビューは、単に条文を確認する作業ではなく、事業リスクを適切に管理し、取引を円滑に進めるための重要なプロセスです。正確にチェックすべきポイントを押さえ、リスクの高い条文を見極められるようになると、レビュー業務全体の質が大きく向上します。

まずは自社のレビュー体制を振り返り、効率よくレビューを進めることができる体制を整備していきましょう。

この記事の監修者

山本 俊

GVA TECH株式会社 代表取締役
GVA法律事務所 創業者

山本 俊

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。AI法務アシスタント、法務データ基盤、AI契約レビュー、契約管理機能が搭載されている全社を支える法務OS「OLGA」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

Xアカウント:@gvashunyamamoto

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