投稿日:2025.10.03

近年、さまざまな業界でAIを活用する動きが広がっています。法律業界も例外ではありません。契約書のレビューから判例の調査まで、AIを活用した「リーガルテック」は、弁護士の業務を効率化し、企業法務に変革をもたらしつつあります。

AIが専門家の職務を代替するという懸念もあるものの、「AIは弁護士の能力を最大限に引き出す最良のパートナーである」という期待も高まっている状況です。

本記事では、AIと弁護士の関係性を「対立」ではなく「協業」という視点から深掘りし、AIが法律業務にどのような影響を与えるのかをみていきます。多くの企業が抱える法務の課題をAIがどのように解決できるのかについてもふれていくため、参考にしてみてください。

弁護士の業務範囲

弁護士の業務は、依頼者の課題解決を目的とした多岐にわたる専門業務です。ここでは、AIとの関係性を理解するための前提として、弁護士の業務を大きく3つに分けて解説します。

訴訟・紛争解決

依頼者が抱えるトラブルを以下のような法的手段で解決に導く業務です。

(1)訴訟代理:民事や行政訴訟において、依頼者の代理人として訴状作成や証拠収集を行い、法廷での弁論や尋問を通じて依頼者の権利を擁護する
(2)交渉・調停:訴訟に代わる手段として、裁判外での和解交渉や調停・仲裁といったADR(裁判外紛争解決手続き)を代理し、円満な解決を目指す

非訴訟分野

裁判を伴わない法律事務を扱う業務であり、次のような項目が代表的です。

(1)契約法務:契約書の作成やレビュー(内容精査)を行う。法的リスクを洗い出し、依頼者の利益を最大化する契約交渉をサポートする
(2)企業法務:法令遵守体制の構築、M&Aにおける法務デューデリジェンス、知的財産権の管理・保護、株主総会運営支援など、企業の健全な運営を多角的に支援する。(3)一般民事:相続、離婚、不動産、債務整理など、個人の生活に密着した法律問題に対し、専門的な知見に基づいたアドバイスや代理業務を提供する

刑事弁護

犯罪の嫌疑をかけられた方や起訴された方の権利を法的に擁護する業務です。

(1)被疑者・被告人の弁護:逮捕後の捜査段階から公判に至るまで、被疑者・被告人の権利が不当に侵害されないよう全面的に弁護する。具体的には、接見・助言、証拠収集、法廷での弁論活動などを行う

AIに代替されやすい領域

AIは、法律業務の中でもとくに大量のデータ処理やパターン認識を必要とする定型業務を効率化できます。

ここでは、AIに代替されやすい領域の業務についてみていきましょう。

調査・分析業務

弁護士や法務担当者が多くの時間を費やす調査・分析業務は、AIが持つ高速な情報処理能力を次のような項目に活かせます。

(1)判例・法令検索:膨大なデータベースから関連する判例や法令を瞬時に検索・抽出し、弁護士の調査時間を大幅に短縮する
(2)契約書レビューのサポート:契約書の条項チェックやリスクの洗い出し、アラートの提示を行う
(3)関連文書の抽出電子証拠開示(eDiscovery):訴訟に関連する膨大な電子データの中から、関連性の高い文書を自動で選別する

関連記事:契約書レビューとは?業務のフローをイチから解説

文書作成業務のサポート

法的文書のドラフト作成時には、AIが過去のデータに基づいて、類似の過去書面、契約書のひな形などを選定してくれるため、工数を大幅に削減できます。

AI時代に弁護士の重要性が増す領域

AIは弁護士の定型業務を代替します。しかし、人間ならではの高度な専門性と判断力を要する領域では、今後弁護士の重要性がさらに増していきます。

複雑な法的判断と戦略立案

複数の法律や判例、事実関係が複雑に絡み合う事案において、AIは関連する情報を迅速に提示できます。しかし、その情報を基に最適な解決策や訴訟戦略の構築することは、弁護士にしかできない高度な思考プロセスです。

たとえば、M&Aにおける法務デューデリジェンスでは、単なるリスクの洗い出しだけでなく、企業の成長戦略や経営者の意図を理解した上で、複雑な法務リスクを判断し、創造的な解決策を提案することが求められます。

交渉とコミュニケーション

AIは、相手の表情や話し方、その場の雰囲気から感情や考えを読み取ることはできません。そのため、相手を説得したり、柔軟に条件を調整したりする交渉は、弁護士の重要性が高い領域だといえるでしょう。

また、依頼者や裁判官と直接向き合い、信頼関係を築くことも弁護士の重要な役割です。

倫理的判断と責任

AIはあくまでツールであり、判断の妥当性や倫理的な側面を最終的に判断するのは常に弁護士です。

また、AIが直接的に依頼者へ法的助言を行うことは、弁護士法で禁止された非弁行為に該当するリスクがあります。AIは過去のデータに基づいた分析は得意であるものの、個別具体的な事案における法律の解釈や倫理的な判断、依頼者との信頼関係構築といった、人間特有の役割を果たすことはできません。

AIは弁護士の「敵」か、それとも「味方」か?

AIは弁護士の仕事を奪うのではなく、スキルや能力を最大限に引き出すためのパートナーでとなります。AIが煩雑な作業を肩代わりすることで、弁護士はより高度な法的判断や依頼者との信頼関係構築といった本質的な業務に時間を割くことができるようになります。

ここでは、多くの企業法務部門が直面する課題とAIを活用できる領域について解説します。

多くの企業が抱える法務の3大課題

企業の中でも案件量が多い法務部門を持つ企業は、次のような業務の属人化や非効率性といった深刻な課題に直面しています。

(1)コストの高さ:訴訟やM&Aといった大規模な案件だけでなく、日常的な相談やレビューでも、外部弁護士への依頼には高額な費用が発生する
(2)業務の非効率性:契約書のレビューやコンプライアンスチェック、印鑑管理など、定型的な法務業務に多くの時間と手間がかかる。また、作業が属人化し、生産性を低下させる原因となるケースも多い
(3)専門知識の不足:法務部門がない企業では、法律の専門知識を持つ担当者がいないため、契約内容や法的リスクの判断に不安を抱え、大きなリスクを見過ごしてしまう可能性がある

AIは法務の課題を解決する「最強のツール」となる

AIは、法務部門が抱える課題を解決するための強力なツールとなり、業務効率化とリスク管理の双方に貢献できます。

(1)コスト削減:AIが契約書レビューや法律調査といった定型業務を自動化すれば、外部の弁護士の依頼は、本当に必要な部分に絞り込める。そのため、法務コストの大幅な削減が可能になる
(2)生産性の向上:AIが定型業務を代替できれば、法務担当者はより高度で戦略的な業務に集中できる。結果として、企業の生産性全体が向上にもつながる
(3)法務の内製化:AIツールを活用すれば、法務知識が乏しい担当者でも、基本的な契約書のリスクチェックや法律調査を社内で行える。育成担当者のリソースも確保しやすくなるため、法務の内製化が進み、企業の法的リスク管理能力向上にもつながる

なぜ「AIは弁護士の代わりにならない」のか?

AIが法律業務に変革をもたらしているといえます。しかし、現状AIの機能には明確な限界があり「弁護士の代わり」にはなり得ません。

AIの限界とハルシネーションのリスク

AIは効率と生産性の向上に期待できるものの、以下のように機能には明確な限界と潜在的なリスクが存在します。

(1) ハルシネーション(幻覚):AIはあたかも正しいかのように事実ではない情報を生成すること(ハルシネーション)がある。法律分野では、誤った判例や法令の引用が致命的なミスにつながる可能性がある
(2) 過去のデータへの依存:AIは、過去のデータに基づいてパターンを学習するため、前例のない新しい法律問題やグレーゾーンの事案には対応できない
(3) 個別具体的な事情の考慮不足:AIは、目の前の事案の背景にある、依頼者の感情や社会的状況といった個別具体的な事情を読み取ることができない。法律問題は、単なる条文の適用だけでは解決できないケースがほとんどである

AIと弁護士の協業がもたらす価値

AIは、弁護士の仕事を「奪う」のではなく、「変える」ものだといえるでしょう。上手くAIを活用し、煩雑な作業を肩代わりさせれば、弁護士はより高度で創造的な業務に集中でき、以下のような価値を作り出せます。

(1)付加価値の創出:より複雑な問題の解決、戦略立案、依頼者との深い信頼関係構築に注力できるようにる
(2)サービスの向上:AIが効率化を担うことで、弁護士はより多くの依頼者をサポートできるようになり、リーガルサービスの提供範囲が広がる
(3)未来の法務:AIと弁護士が協業することで、よりスピーディーで質の高い法務サービスが実現しやすくなる

【導入事例】GVATECHが提供する法務オートメーション「OLGA」が示すAI×法務の未来

ここでは、具体的なAI法律サービスとして、GVATECHが提供する法務オートメーション「OLGA」を例に、AIと法務の未来を紐解きます。

OLGAで解決した「情報分散」と「対応漏れ」の課題

T&Dアセットマネジメント株式会社様は、案件管理をExcelで行っていたため、対応漏れや情報分散が頻繁に発生していました。必要な情報を探すのに時間がかかり、年間を通じて管理の手間が大きな負担となっていたといえるでしょう。

OLGA導入後は、案件情報が自動で一元管理されるようになり、対応漏れが解消され、担当者やマネージャーの業務効率が大幅に向上しています。

詳しくはこちらの記事から

https://olga-legal.com/case/tdasset/

事業部とのやりとりのタイムロスをなくし、契約書レビューを高速化

株式会社識学様は、案件管理がワークフローシステムとSlackに分かれていたため、事業部とのやりとりにタイムロスが発生していました。また、情報が分散し、過去の案件を探すのに手間がかかっている状況でした。

導入後の変化として、OLGAとSlackの連携により、事業部とのコミュニケーションがスムーズになり、契約書レビューのスピードが向上しています。案件情報の一元管理で対応漏れがなくなり、業務効率が大幅に改善されました。

詳しくはこちらの記事から

https://olga-legal.com/case/shikigaku/

分散していた情報管理の一元化を実現

株式会社日立社会情報サービス様は、案件情報が共有フォルダやメール、専用フローに分散しており、相談内容や添付資料の管理が非常に煩雑な状況でした。とくに、修正履歴や過去のやり取りの把握に手間がかかり、情報の一元管理ができない点が大きな課題となっていました。

OLGA導入後は、すべての法務相談を一つの窓口で受付・管理できるようになりました。結果とし、て案件ごとの情報が自動で集約され、過去のノウハウ活用や履歴の比較が容易になり、業務効率が大幅に向上しています。

詳しくはこちらの記事から

https://olga-legal.com/case/hitachi-sis/

AIと弁護士や法律事務所が共存する未来

AIが法律業務に深く浸透していく未来において、弁護士や法律事務所の役割はどのように変化していくのでしょうか。ここでは、AIの浸透により予想される3つの変化について解説します

法務コストの削減と生産性の向上

AIツールが定型業務を代替できれば、企業は外部弁護士への依頼コストを大幅に削減できます。たとえば、頻繁に発生する契約書レビューや法律相談といった業務の多くを内製化することが可能です。そのため、外部の弁護士への依頼を、本当に必要な高度な案件にリソースを割けるようになるでしょう。

また、定型業務から解放されることから、法務担当者の生産性が向上し、より戦略的な業務に集中できるようになります。

法務の内製化とリスク管理

AIツールは、法務の専門知識が不足している担当者でも、基本的な法的リスク管理を可能にします。また日常的な契約書チェックや法律相談を効率化することで、潜在的なリスクを早期に発見し、迅速に対処できるようになります。

また、社内で問題を整理してから外部の弁護士に相談できるため、より効率的かつ的確なアドバイスを得られるようになります。

法律とAIの関係

AIは、法律専門家の仕事を奪う存在ではなく、誰もが法律情報に気軽にアクセスできる環境を整え、法律のハードルを下げる役割を果たします。弁護士はAIが処理したデータを活用し、より複雑な法的判断や依頼者との信頼関係構築に専念できます。

そのため、AIは、あくまで道具として弁護士の専門性を補い、両者がそれぞれの強みを活かすことで、より良い社会を築く共存関係が生まれるといえるでしょう。

よくある質問(Q&A)

ここでは、AIツールに対するよくある質問について解説します。

Q:AIツールを導入すると、弁護士の仕事は本当になくなりますか?

A:いいえ、AIツールによって弁護士の仕事がなくなるわけではありません。AIは契約書のレビューや情報調査といった定型業務を自動化するツールです。弁護士は交渉や法的判断といった人間にしかできない高度な業務に集中できるようになります。

 

Q:AIツールはハルシネーション(幻覚)をつくリスクがあると聞きましたが、信頼できますか?

A:AIツールの情報は、すべてが正確なものだとは限りません。そのため、多くのサービスではAIの分析結果を専門家が最終確認する体制を推奨しています。リスク管理の観点からAIはあくまで「業務を効率化するためのアシスタント」として位置づけ、人間が最終的な責任を持つことが重要です。ちなみに、最近のAIツールではRAG((Retrieval-Augmented Generation))という技術を活用し、アウトプットに活用するデータベースを限定することで、精度を上げる工夫もされています。

 

Q:外部弁護士への依頼コストを本当に下げられますか?

A:上手くAIを活用できれば可能です。AIツールで初期的な契約書レビューや法律調査を社内で行うことで、外部弁護士への依頼を本当に必要な業務のみに絞ることができます。結果として、法務コストの大幅な削減につながります。

 

Q:法務知識がない担当者でも使いこなせますか?

A:法務知識がない担当者でも使いこなせるかは、ツールの機能によります。シンプルなツールは直感的に使えますが、より高度なツールでは、AIの提示するリスクや修正案を最終的に判断するために、一定の法務知識が必要となる場合があります。そのため、導入前にツールの機能やサポート体制をよく確認しましょう。

まとめ:AIはビジネスを加速させるパートナーである

本記事では、AIが弁護士の業務をどのように変革するのか、AIが弁護士の仕事を「奪う」のではなく「アシストする」存在なのかを解説しました。AIは、企業の法務課題を解決し、ビジネスを加速させるための強力なパートナーとなり得ます。

弁護士は、AIに代替できない「複雑な状況判断」や「交渉・コミュニケーション」、「倫理的判断」といった領域で、より重要な役割を担うことが今後より重要になります。

AI時代において、法務部門に求められるのは、AIを「脅威」としてではなく「ツール」として捉え、積極的に活用していく姿勢です。AIがもたらす変化を理解し、適切にリスクを管理する知識を持つことが、今後の法務を成功に導く鍵となるでしょう。

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この記事の監修者

山本 俊

GVA TECH株式会社 代表取締役
GVA法律事務所 創業者

山本 俊

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。AI法務アシスタント、法務データ基盤、AI契約レビュー、契約管理機能が搭載されている全社を支える法務OS「OLGA」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

Xアカウント:@gvashunyamamoto

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