投稿日:2026.07.07

リーガルテックツールの導入を進める企業のなかでよく耳にするのが、「ツールは入れたのに、思ったほど効率化していない」という声です。契約レビューは速くなった。契約書の保管もしやすくなった。それでも、全体のリードタイムが縮まらない、探し物が減らない、引き継ぎが難しい――。こうした悩みには、ある共通点があります。

それは、契約業務を“点”で最適化している一方で、契約プロセス全体を“線”として管理できていないことです。

なぜリーガルテックツールを入れても、業務全体はラクにならないのか

たとえば、AI契約レビューを導入して「1通あたり20分短縮できた」とします。これはとても大きな成果です。ただ、審査そのものは速くなっても、その前後の業務が渋滞したままでは、大きな業務改善効果は見込めません。

法務への依頼がメール、チャット、口頭、複数のフォームに分散していると、まず受付の時点で確認や差し戻しが発生します。さらに、過去の契約書や交渉経緯が別フォルダやキャビネット、担当者個人のメールに散らばっていると、審査時に参照すべきナレッジを探すだけで時間がかかってしまいます。

契約管理システムを導入した場合も同じです。締結済み契約書の保管や台帳入力はラクになっても、締結前の依頼受付、レビュー、承認、やり取りの履歴が分断されたままだと、法務と事業部のコミュニケーションコストは残り続けます。「読み終わった後の本棚」を整理しただけでは、契約業務全体はまだ十分に最適化されていないのです。

契約審査に関わるリーガルテックツールの対応範囲

CLMは、契約プロセスを“線”で捉える考え方

ここで重要になるのが、CLM(契約ライフサイクルマネジメント)です。CLMは、契約の発生から終了までのライフサイクル全体を、一元的に管理・可視化する考え方、そしてそのためのシステムを指します。

対象となるのは、相談・依頼受付、審査・交渉、承認・決裁、締結、保管・更新管理までの一連の流れです。締結済み契約書だけを見るのではなく、「誰が、何を、なぜ判断したのか」という前後の文脈まで含めて残していく発想です。

CLMの価値は“検索性”や“保管性”だけではなく、“引き継げるナレッジ”をつくれることにあります。担当者が変わっても、当時の判断根拠や交渉経緯を後からたどれる状態にしておくことが、属人化の解消につながるからです。

CLMのイメージ

CLMと契約書管理システムの違い

契約管理システムが主に「締結済み契約書ファイルの保管・検索・期限管理」を目的とするのに対して、CLMは「契約に関わるプロセス全体と情報」を管理対象にします。この違いを理解すると、なぜ個別ツールの導入だけでは全体最適になりにくいのかが見えてきます。

比較軸 契約管理システム CLM
管理の対象 締結済みの契約書 契約に関わるプロセス全体と情報
管理の起点 締結後 相談、受付から
残るもの 契約書という成果物 判断経緯、論点、承認課題、ナレッジ
主な目的 保管、検索、期限管理 契約書業務全体の可視化

すべての企業が、最初からCLMを入れるべきとは限らない

一方で、どの企業も一律にCLMを勧めるわけではありません。自社のフェーズによって、優先すべきシステムやオペレーションは変わるからです。

  • 法務担当者が1名で、月間契約審査件数が30件未満の段階:まずは契約管理システムや電子契約システムを整え、「どこに何があるか」が分かる状態をつくることが先決です。
  • 法務担当者が複数名になり、月間契約審査件数が30〜100件程度の段階:この規模になると、受付ややり取りの混乱がボトルネックになりやすくなります。この段階では、相談・依頼受付から管理できるCLMが有効です。
  • 月間契約審査件数が100件以上になり、全社的な法務DXを進めたい段階:CLMに蓄積されたデータを活用し、AIによる自動化や分析の範囲を広げる視点も重要になります。

リーガルテックツールを導入するに当たっては「今の自社にとって何が一番の課題か」を見極めることが大切です。ツールの機能の多さだけではなく、自社の運用フェーズに合っているかを見ないと、導入しても活用しきれないことがあります。

CLM導入を検討するフェーズ

CLM選定で特に重視したい4つのポイント

CLMは対応範囲が広いぶん、「高機能だからよさそう」という理由だけで選んでしまうと、現場に定着しないことがあります。選定時に特に重要なのは、次の4点です。

  • 自社の最大のボトルネックを解決できるか
  • 事業部にとって使いやすいか
  • 既存ツールとスムーズに連携できるか
  • AI活用や将来拡張を見据えたデータ構造になっているか

1つ目の「最大のボトルネック」は特に重要です。すべての機能を広く持っているかよりも、自社が一番困っているフェーズに強みがあるかを見極めた方が、導入効果は出やすくなります。

2つ目の「事業部の使いやすさ」も欠かせません。契約プロセスは法務だけで完結しないので、営業や購買などの依頼者がストレスなく使えるUI/UXであることが、定着に直結します。

3つ目は「既存ツールとの連携」です。メール、Slack、Teams、電子契約、稟議ワークフローなど、すでに使っている仕組みを無理に全て置き換えると、事業部も含め業務フローの大きな変更が必要となります。既存の運用を活かしながら二重入力や転記を減らせるかが重要です。

4つ目は「AI活用・将来拡張性」です。今後、契約データをAIで検索・分析・自動化したいと考える企業は増えていくはずです。そのため、案件ごとの情報が構造的に整理され、自動的に蓄積される仕組みになっているかは、早い段階から見ておきたいポイントです。

CLM選定で確認すべき4つの軸

AI時代ほど、「文脈ごと残るデータ」が大切になる

AI活用の観点でも、契約データは“まとまっていること”が重要です。情報がバラバラに存在していると、AIはそれを一つの案件として認識しづらく、前後の文脈を十分に把握できません。

たとえば、依頼内容はメール、レビュー履歴は別システム、締結版は別の保管庫、承認経路は稟議ツール――という状態だと、「なぜその条項を受け入れたのか」「どの条件で締結したのか」をAIが一貫して理解するのは難しくなります。

逆に、CLMのように案件単位で情報が整理され、依頼時点・レビュー中・締結後といったステータスが明確に残っていれば、AIは文脈を踏まえた検索や回答をしやすくなります。AI時代の法務DXでは、ツールそのもの以上に「AIが使いやすいデータの整え方」が問われると感じています。

OLGAで実現する、契約プロセス一元管理のイメージ

最後に、私たちが提供している法務オートメーション「OLGA(オルガ)」を例に、CLMがどのように実装されるのかをご紹介します。

OLGAでは、案件依頼からレビュー、締結済み契約書の管理までを一つのプラットフォーム上で一元管理できます。案件詳細画面では、依頼内容、関連ファイル、契約書のバージョン、事業部とのメッセージなどを案件単位で確認できます。これにより、契約書だけでなく、その契約にまつわる判断経緯ややり取りも含めて把握しやすくなります。

法務データ基盤 案件詳細画面

また、CLMが定着するかどうかは、事業部門が無理なく使えるかにも大きく左右されます。その点、OLGAでは事業部側がアカウント不要で利用でき、フォームやメールから依頼し、その後のやり取りもメール、Teams、Slackなど普段使っているツール上で続けられます。この「依頼者の負荷を増やさない設計」もCLMの重要な条件だと考えています。

事業部がアカウント不要で導入できる仕組み

まず見直すべきは契約プロセス全体の見直し

リーガルテックツールの導入自体は、決して間違いではありません。ただ、契約レビュー、電子署名、契約管理といった個別機能を“点”で最適化するだけでは、契約プロセス全体の生産性向上にはつながりにくいことがあります。

だからこそ私は、まず「どこで滞りが起きているのか」「その情報はどこに散らばっているのか」を見直し、契約業務を“線”で捉え直すことが大切だと考えています。CLMは、そのための有力な選択肢です。

もし今、「ツールを入れたのに効率化しない」と感じているなら、個別ツールの善し悪しだけではなく、契約プロセス全体がどうつながっているかをぜひ見直してみてください。そこに、次の改善のヒントがあるはずです。

※本稿は、2026年6月17日開催のセミナー「『ツールを入れたのに効率化しない』のはなぜ? 契約プロセスを“点”から“線”へ変えるCLMの基本と選定ポイント」の内容をもとに再構成しています。

この記事の監修者

山本 俊

GVA TECH株式会社 代表取締役
GVA法律事務所 創業者

山本 俊

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。AI法務アシスタント、法務データ基盤、AI契約レビュー、契約管理機能が搭載されている全社を支える法務OS「OLGA」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

Xアカウント:@gvashunyamamoto

管理画面

OLGAなら
あなたのビジネス
最適なプラン
きっと見つかります