投稿日:2026.07.10


広告審査業務のAI活用術

SNSやWeb広告、動画広告など、マーケティング施策の多様化に伴い広告審査が求められる素材は増えていきます。

一方で、広告審査を担当する人員を急に増やすことは、多くの会社にとって現実的ではありません。結果として、1件あたりの確認に割ける時間は圧迫され、法的にNGな表現や不適切な表現を見落とすリスクも高まりつつあるのではないでしょうか。

この記事では、広告審査業務にGeminiやClaudeといった生成AIを取り入れる際に、どのように審査プロセスを分解し、ナレッジを整理し、AIに役割を持たせていくべきかを解説します。ぜひ見落としや判断のばらつきを減らすための設計の参考としてください。

広告審査の大きな課題の一つは「判断の再現性」

広告審査の実務上の難しさは件数だけではありません。例えば、担当者の経験や知識によって、「この表現は許容できる」「ここは修正したほうがよい」という判断に差が出ることがあります。過去の指摘事項や自社ガイドラインが整理されていない場合、結局はベテランの担当者に確認しないと判断できない、という状態にもなりがちです。

さらに、事業部から「なぜこの表現はダメなのか」と聞かれたときに、根拠となる法令、ガイドライン、過去事例を探して説明する時間も発生します。広告審査の負荷は、単にチェックする時間だけでなく、判断根拠を探し、相手に伝わる形で説明する時間も含めて考える必要があります。

最初から「人の代わりにすべて判断させること」を目指すよりも、判断の再現性を高め、説明に必要な材料を整理しやすくすることから始める方が現実的です。

AIに任せる前に、普段行っている広告審査のプロセスを分解する

生成AIに「この広告を審査して」と一言で依頼しても、期待どおりの結果になりにくい理由は、広告審査という業務が、実は複数の判断プロセスの集合体だからです。

たとえば、まずは景品表示法、薬機法、金融商品取引法など、商材に応じた関連法令に抵触する表現がないかを見ます。次に、自社の広告ガイドライン、トーン&マナー、業界ルールに合っているかを確認します。「No.1」「最速」「必ず儲かる」といった最上級表現や断定表現がある場合には、客観的な裏付けがあるかどうかも重要になります。

そして、問題がありそうな表現を見つけた後も、単に「NGです」と返すだけでは実務は前に進みません。事業部に戻すのであれば、「このように言い換えれば出せるのではないか」という代替案まで示す必要があります。

つまり、広告審査をAIに任せる前に、人が無意識に行っている判断を、法令チェック、自社基準・エビデンス確認、代替案の検討という形で分解する必要があります。このプロセスごとにAIへ明確な役割を持たせることで、実務で使いやすいアウトプットに近づけやすくなります。


広告審査のプロセスを分解

専用アシスタントは、ナレッジと出力形式を先に決める

審査プロセスを分解したら、次に考えるのは、生成AIにおける活用をどう設計するかです。ここで重要なのは、いきなり高度な仕組みを作ろうとしないこと。まずはスモールスタートで、AIが判断するためのよりどころを整えることから始めます。

最初のステップは、暗黙知の明文化です。自社のルールブック、過去のNG事例、法令や業界ガイドラインなどを、AIが参照できるナレッジベースとして整理します。これは、AIに「何を基準に判断すればよいのか」を与える作業です。

次に必要になるのが、プロンプトの設計です。たとえば「あなたは広告審査を担当する法務担当者です」と役割を与え、対象とする法令、確認すべきNGワード、注意すべき表現を明確にしておきます。

最後に、出力フォーマットを決めます。「指摘箇所」「理由」「事業部向けの代替案」のように、実務で使いやすい形をあらかじめ指定しておくことで、質の高いアウトプットを引き出すことができます。

ステップ 設計する内容 実務上の狙い
1. ナレッジベース構築 自社ルール、過去NG事例、法令・業界ガイドラインを整理する AIに判断のよりどころを与える
2. プロンプト設計 役割、対象法令、確認すべき表現、NGワードなどを指定する 人が行う審査プロセスをAIに分担させる
3. 出力フォーマット指定 指摘箇所、理由、事業部向け代替案の形で出力させる そのまま確認・修正・返信に使いやすくする

性格が異なる二つの生成AIを活用する

今回、GeminiとNotebookLMという二つのツールを組み合わせて広告審査業務におけるAI活用を検証しています。

Geminiは、いわば「超速読の天才学生」のような存在です。ファイルを短期記憶のように展開するため、広告物を渡すと、その場で全文を読み込み、全体の文脈を踏まえた回答を返してくれます。

一方のNotebookLMは、「完璧なファイリング係」に近いツールです。整理された本棚(データベース)に必要な情報を必要な分だけファイリングしておき、質問があれば、そこから該当する箇所を引用元を明示しながら答えてくれます。

比較軸 Gemini NotebookLM
役割 作る・考える・全体を見る 探す・確認する・引用する
得意なこと 広告全体の文脈理解、整合性チェック、代替案の作成 ガイドライン照会、過去事例検索、出典付きの根拠確認
注意点 暗記できる量に限界があり、ハルシネーションが比較的起こりやすい 資料にない一般知識には答えられず、全体の文脈把握や創造的な文章作成は苦手
向いている使い方 整合性チェック、代替案・修正文の作成、論点整理 判断根拠となる事実・ルールを集める

正確性と創造性を両立させる「ハイブリッド活用」

GeminiとNotebookLMは、どちらか一方を使うのではなく、それぞれの強みを連携させることで、正確性と創造性の両立を目指すことができます。

まずステップ1では、NotebookLMを使って事実を集めます。ガイドラインや過去案件から、今回の広告物に関係する問題点を洗い出し、出典つきで正確なルールを抽出します。

次にステップ2では、その事実をGeminiに渡し、ルールを踏まえた事業部向けの代替案や対応策を複数パターン作成します。

こうしたハイブリッド活用によって、自社のルールに忠実でありながら、事業部の方が納得しやすい、実用的なアウトプットが得られます。


NotebookLMとGeminiの特徴

AIは「作って終わり」ではなく、ナレッジを育てていくもの

スモールスタートでAI活用を始めたあと、必ず直面するのがナレッジのメンテナンスという課題です。NotebookLMに読み込ませているガイドラインや過去の事例集が古いままでは、当然、古い基準での回答しか返ってきません。

また、広告表示に関するルールは随時アップデートされ、自社で扱う商材も変化していきます。新しい事例が出てきたときに、人がどのように判断したのかを残しておかなければ、AIは同じような場面で同じ誤りを繰り返す可能性があります。

ここで大切なのが、差分の言語化です。AIの出力を法務担当者が確認し、修正したときに、「なぜ修正したのか」「どの基準を追加で見たのか」「今回の判断は今後のルールにできるのか」を簡単なメモで残しておきます。

そのうえで、月に1回でもよいので、その判断を自社ガイドラインやNG事例集に追記し、NotebookLMなどに再読み込みさせる。新人がミスをしたときにマニュアルを更新するのと同じように、AIに対しても、業務の中で生まれた判断を戻していく運用が求められます。


審査の実行から最終チェック、差分の言語化、ナレッジの更新へと続く4つのステップ

広告審査業務における生成AI活用の注意点

実務に取り入れるにあたっては、いくつか注意しておきたい点があります。1つ目は、最終的な判断を必ず人が行うことです。AIは優秀ですが、もっともらしい嘘をつくことがあり、存在しないエビデンスをでっち上げてしまうリスクも否定できません。提示されたリスクや代替案を採用するかどうか、最終的な法的解釈の責任は、必ず法務の担当者が持つようにしましょう。

2つ目は、速度と品質の捉え方を変えるということです。複数のツールを連携させ、プロセスごとにプロンプトを分けて判断させると、単に「レビューして」と投げるよりも出力に時間がかかることがあります。ただ、AIが処理している間は、自分は別の業務を進められます。新人の担当者にファーストチェックを依頼し、その間に他の仕事を進めるのと同じマインドセットで捉えると、トータルで見た業務効率化にはつながっていくはずです。

審査担当者が少ない、あるいは一時的に不在になってしまうという会社では、こうしたGemを事業部側に配布してファーストチェックをしてもらう方法も考えられます。

また、広告物を生成AIに読み込ませることに対する情報漏えいの懸念もよく質問をいただきます。大半の生成AIでは、入力した情報をAIの学習に利用しない設定を選べますが、この点は自社の情報セキュリティ部門のポリシーに従って判断する必要があります。

スモールスタートで大切なのは、技術よりも運用設計

広告審査に生成AIを取り入れるとき、最初から大きな仕組みを作る必要はありません。まず取り組みたいのは、審査プロセスを分解し、自社の判断基準をナレッジ化し、AIにどのような役割を持たせるかを決めることです。

AIを万能な審査担当者として扱うのではなく、人が判断するための材料を、より早く、より再現性のある形で集めるパートナーとして設計していきましょう。

※本記事は、2026年4月21日開催のセミナー「広告審査の『見落とし・ばらつき』を減らすための設計思想 ――スモールスタートではじめる生成AI活用の実践ガイド」の内容をもとに、コラム形式に再構成しております。

この記事の監修者

山本 俊

GVA TECH株式会社 代表取締役
GVA法律事務所 創業者

山本 俊

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。AI法務アシスタント、法務データ基盤、AI契約レビュー、契約管理機能が搭載されている全社を支える法務OS「OLGA」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

Xアカウント:@gvashunyamamoto

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