法務コラム
法務DXとは?実務での進め方を3ステップで解説
投稿日:2025.11.21
法務部門は日々、契約書レビュー、案件相談、コンプライアンス対応など、多様な業務への対応を迫られています。事業スピードの加速や規制強化により案件数は増え続ける一方、人員補充は後回しにされてしまうことが多く、「このままでは回らない」という課題感を抱える企業も少なくありません。
こうした状況に対応するため、多くの企業がまず取り組むのが業務のデジタル化です。しかし、紙の契約書をPDF化したり、電子契約を導入したりといった“デジタル活用”だけでは、根本的な改善にはつながりません。
本当に求められているのは、デジタイゼーション → デジタライゼーション → DX(デジタルトランスフォーメーション)という3段階を踏みながら、法務業務そのものを再設計していく「法務DX」です。
この記事では、法務DXの概要を整理しながら、実現に向けたステップや役立つツールを解説していきます。
目次
法務DXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は広く使われていますが、現場では「IT化」や「システム導入」と混同されることも多い領域です。まずは一般的なDXの定義と、その発展ステップを整理したうえで、法務に当てはめると何を意味するのかを明確にしていきます。
DXの一般的な定義と、進化の3ステップ
DXはデジタル技術を活用した業務や組織、提供価値そのものの変革をすることをいいます。
ここで重要なのが、DXはいきなり変革を目指すものではなく、次の3つのステップを踏んで発展する点です。
デジタイゼーション(Digitization):情報のデジタル化
紙や物理メディアとして存在する情報を、PDFやテキストデータなどデジタル形式へ変換する段階です。データ化によってアクセス性が向上し、物理保管に伴う管理コストや閲覧の手間を大幅に減らせる点が特徴です。
デジタライゼーション(Digitalization):業務プロセスの効率化
デジタル技術を用いて、既存の業務プロセスを効率的に進められるよう再設計する段階です。
個々の業務フローを改善することで、人手依存の作業が減り、処理スピードの向上やミスの削減といった具体的な効果が表れます。
デジタルトランスフォーメーション(DX):組織の変革
デジタルを前提とした仕組みに置き換えるだけでなく、業務の流れや意思決定のプロセスそのものを刷新する段階です。
組織全体がデータを共有し、部門横断で連携できる体制が整うことで、提供価値そのものを高める“本来のDX”が実現します。
法務DXとは何か?一般的なDXを法務に当てはめて考える
では、この3ステップを法務領域に置き換えると何が“法務DX”になるのでしょうか。
法務におけるデジタイゼーション
紙の契約書や稟議書、過去の相談履歴をPDF化し、デジタルデータとして扱えるようにする段階です。
例えば、紙の契約書をスキャンしてクラウドに保管したり、旧来の台帳をデータベース化したりといった作業が該当します。この段階では“検索できる”“共有しやすい”状態をつくることが中心で、法務DXを目指す上での土台となります。
法務におけるデジタライゼーション
電子契約やAI契約レビュー、CLMなどのリーガルテックツールを導入し、個々のプロセスを効率化する段階です。
この段階になると「工数削減」「リードタイム短縮」といった効果が見えやすく、最も改善を実感しやすいフェーズといえます。
法務におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を前提に、経営層や事業部門など複数の部署をまたいで、業務フロー全体を改善できる状態を指します。
この段階では、法務部門は「案件の処理部門」から「事業を前に進める戦略的パートナー」としての役割を担えるようになります。
法務DXが注目される背景
法務DXが重要性を増している理由には、複数の環境変化があります。
第一に、案件数の増加と法務人材の不足です。事業スピードが加速するほど、法務が関与すべき案件は増えますが、人材確保は難しく、多くの企業で“業務が回らない”状況が続いています。
第二に、コンプライアンス・内部統制が高度化している点です。個人情報保護、規制対応、内部監査など、法務の守備範囲は年々広がっており、従来のやり方では対応が困難になっています。
さらに近年は、電子契約の普及や生成AIの進化によって、法務のデジタル化が一気に現実的になりました。契約レビューの初期チェックや相談受付の一元化など、これまで手作業でしかできなかった業務がデジタルで補えるようになり、DXが進みやすい環境が整いました。
法務DXのメリット
法務DXを実現することで、次のような具体的なメリットが期待できます。
リードタイムの短縮
法務相談、契約審査、承認フロー、契約管理といったプロセスが整理されることで、ボトルネックとなっていた課題が減り、案件処理のスピードが大きく向上します。事業部とのやり取りがスムーズになり、全社の意思決定スピードにも貢献します。
属人性の解消と品質の均一化
過去のレビュー履歴や判断基準などのナレッジがデータとして蓄積されるため、特定の担当者に依存せず業務を進められます。 個人差が出やすい契約レビューや相談対応でも、一定の品質を維持しやすくなります。
内部統制とリスク管理の仕組み化
契約書の更新漏れ、承認フローの不透明さ、判断基準のバラつきなど、これまで個人の工夫に頼っていたリスクがシステムでコントロール可能になります。 監査対応や内部統制の面でも効果が大きい領域です。
法務部門のキャパシティ拡大
ルーティンや反復作業が減ることで、法務担当者が本来注力すべき「検討・判断」に時間を割けるようになります。 同じ人数でも処理できる案件数や領域が増え、事業に対する貢献度も高まります。
法務業務で非効率になりやすい領域
法務業務は広範囲にわたり、すべてを一度に変えることは現実的ではありません。一足飛びにDXを目指すのではなく、まずは日々のオペレーションの中でも特に非効率が生じやすい領域を押さえることが重要です。ここでは、法務の主要領域を整理しながら、それぞれで起こりがちな課題や非効率について紹介します。
契約審査(契約書レビュー)
契約書のドラフト作成やレビュー、リスク検討など、法務にとって最も重要な業務のひとつです。案件の難易度や担当者の経験値によって判断基準がブレやすく、属人化が起こりがちな領域でもあります。
・過去のレビュー履歴や指摘事項が担当者の頭の中にしかない
・似た契約書が大量にあるのに、一から読み込むケースが多い
・事業部からの依頼が急増するとボトルネックになる
・判断が人によって違い、レビューの品質にムラが出る
この領域は「人に依存している作業」が多く、デジタライゼーションの効果が出やすい典型的な領域です。
法務相談(事業部からの質問対応)
日常的に寄せられる法的な質問や規約確認、運用に関する相談などを扱う領域です。定型的な質問に対して何度も答える対応をしている企業も多く、非効率になりやすい領域です。
・どこから相談が来るか分からず、対応漏れが起こる
・類似の質問が何度も繰り返される
・誰が何を回答したか記録が残らない
相談業務は「属人化」と「抜け漏れリスク」が課題となりやすく、業務設計を見直すことで改善効果が大きい領域です。
審査依頼・案件管理(レビュー依頼の受付〜進捗管理)
契約書のレビュー依頼、規約改定、合意書作成など、審査業務の全体フローを扱う領域です。法務部門に最も負荷が集まりやすく、業務量が可視化されていない企業ほど苦労しやすい部分です。
・依頼がメール・チャット
・Excelでバラバラに届く
・依頼時の情報が不十分で、事業側と何度もやりとりする
・案件のステータスが追えず、優先順位をつけにくい
・法務部内で業務負荷が偏る
この領域は、デジタライゼーションによって「全体が見える化」されるため、業務負荷を平準化しやすくなります。
契約管理(締結後の契約書管理)
契約書の保管、検索、更新期限の把握など、契約締結後の管理を扱う領域です。紙・PDF・Excelが混在している企業が多く、改善余地の大きい業務の一つです。
・契約書を探すのに時間がかかる(検索性が低い)
・どこに保存されているか部署ごとにバラバラ
・契約更新の期限管理が人に依存しており、対応漏れのリスクが高い
・契約書が紙のまま残っており、共有しにくい
契約書管理の基盤が不安定だと、リスク管理にも大きな影響が出ます。
ナレッジ管理(法務ナレッジの蓄積と共有)
法務部門が蓄積してきた判断基準や契約書の修正履歴、内部方針などを扱う領域です。特定の担当者だけが知っている情報が多い場合、属人化が進みやすくなります。
・過去のレビュー履歴を参照できない
・新人教育で担当者の負担が大きい
・担当者の退職などにより、過去の蓄積が失われてしまう
・情報が個人フォルダに閉じており、共有されない
ナレッジは“蓄積されていないこと”そのものが非効率の原因になります。
法務領域のデジタイゼーションの進め方
法務DXの第一段階となるのが「デジタイゼーション(情報のデジタル化)」です。 紙の契約書ファイル、メールの受信箱、共有フォルダ、特定担当者の頭の中など、情報が複数の場所に散らばっているケースは少なくありません。
そのためデジタライゼーションやDXを無理なく進めるためには、まず土台づくりとして契約や案件に関する基本情報をデジタルで扱える情報に整え、一つの形式にまとめることがデジタイゼーションの第一歩です。 ここでは、法務領域におけるデジタイゼーションを推進する上で、優先して取り組むべきポイントを解説します。
契約書類のデジタル化
紙のまま保管されている契約書をPDF化し、検索できる状態へ整備します。この段階では、完璧な構造化まで目指さなくてもよく、まずは探せる・共有できるレベルをつくることが最優先です。
契約台帳・案件台帳のデータ化
個人でばらばらに管理されている契約台帳・案件台帳情報を、組織として検索・更新しやすい形式へ整備します。
最低限、「案件名/相手方/契約書種別/日付情報/ステータス」といった項目で検索できる状態を作るだけで、後続工程の効率が大幅に改善されます。
フォルダ・命名規則・保管ルールの標準化
「どのフォルダに何を置くのか」「ファイル名の形式はどうするか」といった基本設計がバラバラだと、データの価値が一気に下がります。
全社・法務部門で統一したルールを定めることが効果的です。
法務領域のデジタライゼーションの実現を支援するリーガルテックツール
法務のDXの第二段階となるデジタライゼーション(個別プロセス効率化)を推進する上では、リーガルテックの導入が特に効果を発揮します。ここでは、代表的な手段を整理し、それぞれがどの課題に有効なのかをわかりやすく解説します。
電子契約(電子サイン)
電子契約は、紙での契約締結に比べて大幅な時間短縮が期待できる領域です。印紙税の削減、郵送の手間の削減、契約締結までのリードタイム短縮など、導入効果を実感しやすいのが特徴です。
また、契約締結プロセスのデジタル化が進むことで、締結済み契約の管理や検索もしやすくなり、契約管理領域とも密接に関わります。
AI契約レビュー(AIレビューシステム)
AI契約レビューは、契約書の初期チェックを自動化し、条文ごとのリスク指摘や修正案を提示するツールです。属人化しやすい契約レビューにおいて負荷を軽減し、品質の平準化に寄与します。
ただし、AIレビューシステムは法律判断そのものを代替するものではないため、弁護士法第72条に基づくガイドラインの範囲内で適切に活用することが重要です。初期チェックをAIに任せ、最終判断は法務担当者が行うという運用が一般的です。
関連記事:AI契約書レビューはどこまで使える?特徴や導入事例を解説
CLM(契約ライフサイクルマネジメント)
CLMとは従来の「契約書の保管」だけにとどまらず、契約審査の受付から締結、更新や破棄にいたるまでの全体の流れをデジタルで一元的に可視化する仕組みを指します。
電子契約やAI契約レビュー、ワークフローともシームレスに連携することができるプロダクトもあり、過去の契約情報を「経営資産」へと昇華させることができます。
関連記事:CLM(契約ライフサイクル管理)とは?契約を資産化するための仕組みづくりを解説
法務DXを加速させる統合ソリューション「OLGA」
法務DXの最終目標は、個別業務の効率化を超え、法務業務のプロセス全体を「つながった仕組み」に変革し、組織全体に価値をもたらすことです。そのためには、案件、契約、ナレッジといった法務情報すべてを一元的に扱うことのできる統合プラットフォームが必要になります。
GVA TECHが提供する「OLGA(オルガ)」は、法務業務に関するあらゆる情報を一元化し、案件処理の自動化を実現するために設計されたシステムです。

OLGAは、法務に関わる煩雑なプロセスをシームレスにつなぎ、全体最適としての法務DXを実現します。
法務DXを進める上でのポイント
法務DXは、一度にすべてを変える必要はありません。むしろ「正しい順序」で進めないと、ツール導入だけで終わってしまい、期待した効果が得られないケースが少なくありません。ここでは、法務DXを失敗させないための実践的なロードマップを段階的に整理していきます。
現状の可視化と課題整理
法務DXに向けて最初に取り組むべきは、現状の可視化です。 契約審査、案件管理、契約管理、ナレッジ管理、コンプライアンスなど、法務業務を一度分解し、それぞれにどのような課題があるかを整理することが重要です。
・契約レビューの属人化が課題なのか?
・案件の増加による対応漏れが課題なのか?
・契約書の検索性が低いことが課題なのか?
といった具合に、“何が一番の問題か” を特定することで、次に取るべきアクションが明確になります。
テスト導入でしっかり検証する
リーガルテックは、いきなり大規模に導入するのではなく、「テスト導入」で丁寧に検証していくことが重要です。
まずは少人数・少数案件で試し、
・既存フローとの相性はどうか
・運用ルールは整理しやすいか
・ツールのサポート体制は充実しているか
といった点を評価します。 テスト導入を挟むことで、最適な運用方法や必要な調整点が見えてきて、本格導入後の失敗リスクを大幅に下げることができます。
スモールスタートでツール導入を進める場合も最終ゴールを見据える
個別プロセスのデジタル化(デジタライゼーション)から着手することは、法務DXにおいて非常に現実的で効果的な進め方です。ただし、ここで忘れてはいけないのが、スモールスタートであっても“最終的なDXの姿”を見据えてツールを選定することです。
例えば、将来的に案件受付や契約書レビュー、契約管理システムなどの流れをシームレスにつなげたいという構想があるにもかかわらず、相互の連携性が低いツールを短期的な理由で選んでしまうと、後から別ツールへの乗り換えが必要となり、運用フローの見直しなどの大きな負担が生まれます。
スモールスタートは進め方、DXは最終ゴール。
この両方を見据えて選ぶことで、短期的な改善と長期的な最適化を同時に実現できます。
関連記事:法務業務を効率化するためのアプローチ|法務の課題を解決するリーガルオペレーションズとは?
法務DXは「課題の特定×適切な手段」の積み重ね
法務DXは、単にツールを導入したり業務をデジタル化したりする取り組みではありません。
デジタイゼーション → デジタライゼーション → DX(デジタルトランスフォーメーション)
という段階を踏みながら、法務業務全体をより価値あるものへと変えていくプロセスです。
いきなり大きな成果を求める必要はなく、まずは案件管理の一元化や契約台帳の整備など、“小さな一歩”が組織の確かな変化につながります。
自社の法務にどんな課題があるのか、どの領域から着手すると効果が大きいのかを整理してみてください。そこから、法務DXの第一歩が自然と見えてくるはずです。


