法務コラム
AIワークフローを活用した法務の業務効率化の実践
投稿日:2026.08.03

契約書の要約やレビュー、メール文面の作成など、チャット型の生成AIを法務業務に取り入れる場面は増えています。一方で、AIが出した結果を台帳へ転記し、担当者へ通知し、ファイルを所定の場所へ保存する作業は、依然として人が担っているケースも少なくありません。
この記事では、チャット型AIとワークフロー型システムの違いを整理したうえで、法務案件台帳の作成や反社チェック、契約レビュー連携の例を紹介します。AIを業務プロセスへ組み込む際の考え方として、ぜひ参考にしてみてください。
チャット型AIの限界
チャット型AIは、契約書の要約やリスク論点の整理、文章のドラフト作成、社内規程や法令の検索補助などに力を発揮します。質問を入力すれば、その場で答えが返ってくるため、担当者個人の作業を短縮するうえでは非常に有効です。
ただし、実務はAIへの質問と回答だけで完結するわけではありません。依頼メールを開き、必要な情報を読み取り、AIへ入力し、出力結果を台帳にコピーし、添付ファイルを保存し、担当者や申請者へ連絡する。こうした前後の工程が人の手に残っていると、AIを使っていても業務全体は分断されたままです。
この「点の効率化」のままでは、単発のタスクは速くなっていても、次の工程へ自動でつながらず、効率化への寄与は限定的となります。
法務部門全体の生産性を高めるには、AIの回答精度だけでなく、その結果を次の処理へ渡す仕組みまで考える必要があります。
| チャット型AIでできること | チャット型の限界 |
|---|---|
| 契約書の要約・リスク論点の整理 | 都度入力・都度出力の繰り返し |
| 文章のドラフト作成・修正 | アウトプットを別ツールへ手動転記 |
| 社内規程・法令の検索補助 | 担当者が通知・登録を個別に実施 |
| メール・議事録の要約 | 業務全体の自動化にはつながらない |
ワークフロー型システムを活用して法務のAI活用を「面」に広げる
この「点」を「面」に広げる鍵になるのが、ワークフローという考え方です。ワークフローとは、依頼を受け付け、内容を確認して対応し、記録し、蓄積するという一連の業務の流れそのものを指します。
法務相談や契約審査の依頼であれば、メールやフォームで受け付け、相談種別や優先度を分類し、必要な情報を要約・抽出し、担当者へ通知したうえで台帳へ残すところまでが一連のプロセスになります。

このワークフローを組むためのツールは、決して特別なものである必要はありません。Claude CodeやChatGPT、Google Workspace、Zapier、Microsoft Copilot Studio、Difyなど、既に手元にあるものの組み合わせから始められます。
まずは身近な業務を対象に、小さく設計して動かしてみることが現実的です。
チャット型とワークフロー型の違い
チャット型AIとワークフロー型AIは、どちらか一方を選ぶものではありません。それぞれの特徴を理解し、業務に応じて組み合わせることが大切です。
| 観点 | チャット型AI | ワークフロー型AI |
|---|---|---|
| 使い方 | 都度プロンプトを入力し対話する | 業務フローに組み込み自動で実行 |
| 活用の範囲 | 個人の作業を単発で支援(点) | 部門全体の業務を継続処理(面) |
| 出力の扱い | 手動でコピーし別ツールへ転記 | 台帳登録・通知まで自動で連携 |
| 記録・履歴 | 会話は流れ、属人的に残る | 処理履歴が自動で蓄積・追跡可能 |
| 得意な領域 | 調査・要約・草案づくり | 受付〜記録〜通知の定型業務 |
調査や文章作成のように、内容が毎回変わり、人との対話を重ねながら進める作業にはチャット型AIが向いています。一方、同じ形式の依頼を受け付け、必要項目を取り出し、所定の場所へ登録して通知する処理にはワークフロー型が適しています。
実務では、ワークフローの中にチャット型AIの処理を部品として組み込むイメージが分かりやすいでしょう。受付や登録は仕組みでつなぎ、要約や分類、レビューなど、言語処理が必要な部分をAIに担当させます。
ワークフローシステム活用の具体例
ここでは、法務業務における具体的なワークフローシステムの活用例を紹介します。いずれも分類・抽出・要約・通知・台帳化という点で共通しており、これらのタスクは、特にAIとの相性が良いといえます。
法務案件管理
最初にご紹介するのは、法務案件の台帳を自動で作成するワークフローです。

図2:Gmailでの受付をきっかけに、AIが内容分類・要約を行い、スプレッドシートへ自動記帳したうえで、担当者にアサイン通知メールを送るまでの流れ。
仕組みはシンプルで、事業部からのメールに「リーガルチェック依頼」という文言を入れてもらうと、それをきっかけにワークフローが起動します。
AIがメールの内容から依頼者名・メールアドレス・相談のカテゴリ・概要・回答期限を抽出し、あわせて本文を50文字程度に要約します。長い文章のままでは一目で内容がつかみにくいので、パッと見て依頼内容がわかるようにするための工夫です。添付ファイルがあれば、いちいちローカルにダウンロードすることなく、指定のGoogleドライブへそのまま格納されます。

反社チェック
案件台帳の自動作成で使った型は、反社チェックの業務にも応用することができます。

Googleフォームから依頼者のメールアドレスとチェック対象の会社名を受け付けると、フォーム回答をトリガーにワークフローが起動します。
依頼者がGoogleフォームでチェック対象の企業名を入力すると、それがトリガーとなり、企業名を正式名称も含めて調べたうえで反社チェックを行うようプロンプトを仕込んだGemが自動で実行されます。企業名に「株式会社」などがついていなくても、正式名称を調べたうえでチェックするよう指示しておけば、入力の揺れもあまり気にする必要がなくなります。

関連記事:反社チェックは生成AIでどこまで効率化できる?業務の負担を減らす一次スクリーニングの設計方法
ワークフロー型AI活用を始めるときの注意点
ワークフロー型AI活用において、下記のような部分は実際に取り組んでいただく際に意識しておく必要があります。
- 役割分担の設計:AIが担う範囲と、人が確認・判断する範囲を明確に切り分ける
- 機密情報の取り扱い:社内規程・セキュリティポリシーに沿った運用ルールを定める
- 出力結果の確認体制:AIの判断を最終確認する、人的チェックフローを設計する
- 分類ルールの設計:AIが正確に動くよう、分類軸・ラベル・条件を事前に整理する
- ログ管理:いつ・誰が・何を依頼し、AIがどう処理したかを記録・追跡可能にする
AI活用は「自動化すること」だけでなく、「管理可能な状態にしておくこと」が同じくらい重要です。
単に人の作業を減らすことではありません。いつ、誰が、何を依頼し、AIがどのように処理し、人がどの判断をしたのかを追跡できる「管理可能な状態」をつくることで、業務の標準化や改善、ナレッジの蓄積にもつながります。
プロンプトの工夫から、業務プロセスの設計へ
チャット型AIは、法務担当者の調査や文章作成を助ける強力な道具です。ただし、部門全体の業務改善へ広げるには、AIに何を聞くかだけでなく、その前後の工程をどのようにつなぐかを考えなければなりません。
まずは、日々の業務の中で「AIの結果を別の場所へ転記している」「同じ内容を担当者へ繰り返し通知している」「ファイル保存や台帳入力に時間を使っている」といった箇所を探してみてください。そこには、ワークフロー化できる余地があります。
AI活用を個人の便利な道具から、法務部門の業務を支える組織的な仕組みへと変えていきましょう。
この記事は、2026年6月11日に開催したセミナー「チャット型AIで終わらせない!法務AI活用の次の一手となる業務ワークフロー入門」の内容をもとに構成しています。
紹介している具体例や機能は収録時点のものですので、自社で開発・アレンジする場合は、最新の仕様、利用可能なAPI、社内のセキュリティルールをご確認ください。
