法務コラム
法務人材の採用が難しいのはなぜ?人材不足に備える5つの対策
投稿日:2026.09.01

「法務担当者を採用したいが、なかなか採れない」「ようやく採用できても定着しない」「担当者が退職すると、業務が一気に回らなくなる」。こうした法務人材の採用に関する悩みを抱える企業は少なくありません。
いまの法務人材市場は、以前にも増して採用の難易度が高い状況にある一方で、法務に求められる業務は減るどころか、法規制対応やグローバル化などを背景にますます広がっています。
この状況で大切なのは、人材不足を「採用できれば解決する問題」と捉えないことです。
この記事では、法務人材の採用が難しい背景を整理したうえで、人が入れ替わっても法務機能を維持できる組織をつくるための考え方について解説します。
法務人材の採用が難しくなっている背景
法務人材の採用が難しくなっている背景には、採用市場だけでなく、企業側で求められる法務機能そのものが広がっていることがあります。
| 法務業務の増加要因 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 契約件数の増加 | パートナー企業・代理店との契約拡大、既存取引の更新対応、M&A・業務提携の増加 |
| リーガルチェックの高度化 | 個人情報保護法・GDPR等の改正対応、取適法・フリーランス新法等の遵守体制構築、生成AI利用に伴う新たな法的リスクへの対応 |
| IPO準備に伴う対応領域の増加 | 資金調達関連契約の整備、上場準備に伴う内部統制・コンプライアンス体制の構築、利用規約・プライバシーポリシー等の整備 |
| グローバル化の進展 | クロスボーダーM&A・海外進出に伴う法務対応、英文契約書のドラフト・レビュー・交渉、各国の法規制・準拠法への対応 |
一方で、必要な法務人材を確保することは簡単ではありません。「採用活動を続けているがなかなか採れない」「退職者が出たものの後任が決まらない」といった相談を耳にすることも少なくありません。
法務人材は専門性が求められるため、求める経験やスキルによっては採用が長期化することもあります。そのため、「必要になったら採用すればよい」という前提だけで法務組織を設計することは、難しくなってきていると感じます。
また、採用だけでなく、既存メンバーの退職や異動も想定しておく必要があります。つまり、これからの法務組織では「どう採用するか」だけではなく、人が増えなくても、あるいは人が入れ替わっても業務を維持できるかという視点が重要になります。
法務人材を採用できない状態が続くと起こる「負の連鎖」
採用が長期化すると、当然ながら既存メンバーの負荷が高い状態が続きます。忙しいために業務の整理や引き継ぎに時間を使えず、結果として特定の担当者しか分からない仕事が増える。属人化が進むほど、キーパーソンへの負担もさらに集中します。
そして、そのキーパーソンが退職すると、業務の停滞や品質低下が一気に表面化します。契約審査が遅れれば、新しいサービスや取引の開始が遅れ、ビジネス機会を逃す可能性があります。法令違反や見落としにつながれば、ガバナンス上のリスクにもなります。

人材不足は、法務部門だけの問題にとどまりません。業務が止まることで事業スピードやリスク管理に影響が出るという意味では、経営課題として扱うべきテーマだといえます。
法務の人材不足に備える5つの対策
人材リスクに対応するためには、大きく5つの方向性があります。1つ目は採用の強化、2つ目は組織体制の変革、3つ目はリーガルテックの活用、4つ目は外部委託(ALSP)の活用、5つ目は生成AIの活用です。

重要なのは、どれか一つを万能な解決策として選ぶのではなく、自社の課題に合わせて組み合わせるという視点です。
採用が必要な会社もあれば、そもそも業務プロセスを整理することで負荷を下げられる会社もあります。繁忙期だけ外部リソースを使う方が合理的な場合もあります。まず「どこが詰まっているのか」を見極め、そのうえで手段を選ぶことが出発点になります。
対策1| 法務人材の採用は「即戦力一本足」から見直す

採用を強化する場合、まず検討したいのが採用対象の広げ方です。経験者だけを狙うと、限られた候補者を多くの企業で奪い合うことになります。時間的な余裕があるなら、法学部卒やロースクール修了者など未経験層を採用し、社内で育成する選択肢もあります。
採用チャネルも一つに絞らない方がよいでしょう。人材紹介会社だけでなく、リファラル、ダイレクトリクルーティングなどを併用し、候補者との接点を増やしていくことも重要です。
報酬水準についても、市場の変化を踏まえた見直しが必要です。金額だけで入社先が決まるわけではありませんが、競合企業との条件差が大きければ、選考終盤で辞退につながることもあります。
また、「誰と働くのか」「どのような仕事に挑戦できるのか」「どのような働き方ができるのか」といった情報を採用ページなどで具体的に伝えることも大切です。転職理由として、キャリアの広がりや評価、組織環境、ワークライフバランスが挙げられていることを考えると、法務組織そのものの魅力をどう見せるかも採用力の一部です。
また、法務人材の採用期間は、ポジションや要件によって大きく変わりますが、1年以上採用できないケースもあります。採用が長引くことを前提に、その間の業務をどう支えるかまで考えておく必要があります。
法務人材の採用に関するご相談
法務人材の採用チャネルの一つとして、GVA TECHでは「GVA Executive Agent」を提供しています。法務・管理部門の実務や求められるスキルを踏まえ、企業課題に合った人材の採用を支援しています。
対策2| リーガルオペレーションズで法務業務を標準化する
採用と並行して考えたいのが、組織体制そのものの見直しです。ここで参考になるのが「リーガルオペレーションズ」という考え方です。法務業務を個々の専門家の頑張りだけで回すのではなく、業務プロセス、テクノロジー、データ、人材配置などを整理し、法務の価値を最大化するための運用を設計していきます。
たとえば、法務相談や契約審査の受付方法が人によって異なるなら、入口を統一する。判断に必要な情報が毎回不足するなら、依頼フォームを見直す。進捗が見えないなら、案件情報を一元化する。こうした改善を積み重ねることで、特定の人の記憶や経験だけに依存しにくい状態をつくれます。
ここで特に重要なのは、ツールを入れること自体を目的にしないことです。業務プロセスを整理し、「どの課題を、どの仕組みで解決するのか」を決めてからテクノロジーを選ぶ。この順番がないと、せっかく導入したツールが現場に定着しないことがあります。
関連記事:法務業務を効率化するためのアプローチ|法務の課題を解決するリーガルオペレーションズとは?
対策3| リーガルテックで法務の負荷と属人化を減らす

リーガルテックには、契約レビュー、締結済み契約書の管理、法務案件管理やCLMなど、さまざまな領域があります。うまく活用できれば、定型業務を効率化し、既存メンバーの負荷を下げられます。さらに、これまで暗黙知だった判断や対応履歴をデータとして残すことで、担当者が変わっても業務を引き継ぎやすくなります。
一方で、導入しただけでは効果は出ません。現場の課題とツールの機能がずれていないか、既存の業務フローにどう組み込むか、利用を定着させるために何を変えるかまで含め、運用まで含めて設計することが必要です。
また、案件数や所要時間を可視化できるようになると、「何となく忙しい」ではなく、どの領域にどれだけ工数がかかっているかを数字で説明できます。人員補充や予算申請を行う際にも、こうしたデータは有効な材料になります。
対策4| 外部委託を活用して不足する法務リソースを補う

人員不足をすべて採用で埋める必要はありません。特定の領域で専門性が必要な場合や、繁忙期だけ一時的にリソースが足りない場合には、法律事務所などへの外部委託も有効な選択肢になります。
外部委託には、特定の弁護士・法律事務所と継続的に契約する方法と、M&Aや訴訟、規制対応など、専門性の高い案件を必要なタイミングでスポットで依頼する方法があります。
社内だけでは確保しにくい専門性を補えるほか、採用が決まるまでの一時的な「穴埋め」として活用することもできます。特に、海外法務や知的財産、労務など、常時一定量の案件が発生するとは限らない領域では、必要に応じて外部の専門家を活用する方が合理的なケースもあります。
一方で、外部委託にはコストがかかるほか、依頼のたびに社内事情を説明する必要があったり、進捗管理が複雑になったりする場合もあります。また、外部への依存が続けば、判断の背景やノウハウが社内に蓄積されにくくなる点にも注意が必要です。
そのため、外部委託を活用する際には、単に「忙しいから外に出す」のではなく、何を社内に残し、どの業務を外部に任せるのかを整理するという視点が欠かせません。
対策5| 生成AIで法務の定型業務を効率化する
5つ目の対策として考えたいのが、生成AIの活用です。
法務業務の周辺には、社内規程の整合性確認、文書のドラフト作成、要約、情報整理、リサーチなど、生成AIを活用できる場面が多くあります。最近では、汎用的なチャットツールを使うだけでなく、自社の業務に合わせた簡単なアプリケーションやワークフローを構築することも、以前より取り組みやすくなっています。
こうした業務を生成AIで支援できれば、人が一から処理する必要のある作業を減らし、法務担当者がより判断や交渉といった付加価値の高い業務に時間を使いやすくなります。採用によって人員を増やすだけでなく、一人あたりが対応できる業務量を増やすという観点でも、生成AIは有力な選択肢です。
ただし、生成AIは使えば自動的に業務が効率化されるものではありません。ハルシネーションなどによって事実と異なる情報が出力される可能性もあるため、どの情報を参照させるのか、どこまでAIに任せるのか、人がどの段階で確認するのかをあらかじめ設計しておく必要があります。
また、法務業務では、自社の過去の判断や契約ひな形、社内規程など、参照すべき情報が明確であるほどAIを活用しやすくなります。生成AI単体で考えるのではなく、AIが参照できるナレッジをどのように整備するかまで含めて設計することが重要です。
関連ウェビナー:「生成AIの精度が不安」な法務担当者のためのプロンプト設計&検証術入門
法務の属人化を防ぐには、ナレッジを組織に残す
人材リスクを考えるうえで、特に重要なのがナレッジの残し方です。
担当者が退職・異動したときに大きな問題になりやすいのは、「なぜその判断をしたのか」「過去にどのようなやり取りがあったのか」といった判断の経緯まで見えなくなってしまうことです。
法務では、契約書や回答そのものだけでなく、その結論に至るまでの背景や過去の対応履歴も重要なナレッジになります。こうした情報が個人のメールボックスやチャット、フォルダの中に分散していると、担当者が変わるたびに過去の経緯を探し直したり、同じ論点を一から検討したりすることになりかねません。
一方で、案件の受付から契約レビュー、締結済み契約書の管理、過去の相談や回答までを一つの流れとして記録できれば、人が入れ替わっても過去の情報を参照しながら業務を進めやすくなります。
つまり、人材リスクへの備えとして大切なのは、単に引き継ぎ資料を作ることではなく、日々の業務を行うだけでナレッジが組織に蓄積される仕組みをつくることです。
GVA TECHが提供する法務オートメーション「OLGA(オルガ)」は、こうした考え方のもと、案件依頼からレビュー、締結済み契約書の管理までの情報を一元化できる仕組みです。

実際にOLGAを導入した企業では、案件受付に毎日約1時間半かかっていた作業がゼロになったケースや、数万件規模のファイル管理・格納作業を削減したケースがあります。また、過去のQ&Aを法務FAQとして展開することで、年間約2,700件あった相談を900件以下に減らした事例もあります。

人の入れ替わりを完全に防ぐことはできません。だからこそ、ナレッジを「人について回る情報」から「組織に残る資産」へ変えていくことが、法務の属人化や人材リスクへの備えにつながります。
関連ウェビナー:法務AXを実現する「OLGA」のご紹介 — 属人化した法務業務を“再現可能な仕組み”に変える方法 —
人を増やすだけでなく、人が変わっても回る法務組織へ
法務人材の採用難は、短期的に解消しづらい課題です。だからこそ、採用力の強化と並行して、業務プロセスを見直し、テクノロジーや外部リソースを活用し、ナレッジが組織に残る状態をつくっておくことが重要です。
どれか一つの方法で解決しようとするのではなく、自社の課題に合わせて組み合わせる。その積み重ねが、限られた人数でも法務機能を維持・強化できる組織づくりにつながります。
※本記事は、2026年7月16日に開催したウェビナー「法務部門の人材リスクを直視する—転職市場データと実務事例から読み解く、法務組織の脆弱性と処方箋に迫る—」の内容をもとに再構成しています。