投稿日:2026.10.13

カスハラ・就活セクハラ対策の義務化と企業が備えるべき実務対応とは?

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる就活セクハラ)対策が、すべての企業に義務付けられました。カスハラ対策の義務化により、企業には従業員を守るための方針や相談窓口、発生時の対応ルールなどをあらかじめ整備しておくことが求められます。

今回の改正は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)によるもので、カスハラ対策は改正労働施策総合推進法、就活セクハラ対策は改正男女雇用機会均等法に基づくものです。

この記事では、カスハラ対策の義務化で企業がやるべきことを中心に、カスハラと正当なクレームの違い、現場で迷わないための対応ルール、就活セクハラの対象範囲や相談窓口・採用ルールなど、企業が押さえておきたい実務上のポイントを整理します。

2026年10月からカスハラ・就活セクハラ対策がすべての企業に義務化

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づくカスハラ防止措置と、改正男女雇用機会均等法に基づく求職者等へのセクシュアルハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。企業規模による猶予措置はなく、すべての企業が対象です。

ここでいう措置義務は、会社が整えておくべき対策を意味します。カスハラであれば、会社として許さないという姿勢や方針を示すこと、相談窓口を設けること、発生時に事実確認や被害者への配慮、再発防止を行うこと、さらに悪質なケースへの対処方針を決めておくことなどが中心になります。

厚生労働省の実態調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為について相談があったとする企業は27.9%でした。小売、金融、不動産、宿泊・飲食、医療・福祉など、顧客や利用者と直接接する機会が多い業種では、相談割合が高い傾向も見られます。

一方、就活セクハラは現時点では企業側の相談件数だけを見ると多くありません。しかし、求職者は「選考に影響するのではないか」と考え、声を上げにくい立場にあり、相談が少ないから問題が起きていない、と単純には捉えられません。だからこそ、問題が表面化してから対応するのではなく、相談できる仕組みを先に整えておくことが重要です。

参照:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(厚生労働省)

カスハラとは?正当なクレームとの違いを「要求内容」と「伝え方」で判断する

まず押さえておきたいのは、「苦情=カスハラ」ではないということです。商品やサービスへの正当な意見や要望は、企業にとって大切な声です。国の指針でも、社会通念上相当な範囲の申し入れは正当なクレームとして整理されています。

カスハラに該当するのは、①顧客等の言動であること、②社会通念上許容される範囲を超えたものであること、③その言動によって労働者の就業環境が害されること、という3つの要素をすべて満たす場合です。

実務上、特に判断しやすい軸が「要求の内容」と「伝え方」です。要求そのものに理由がない、契約上想定されるサービスを著しく超えているなど、要求内容が社会通念上相当な範囲を超えていれば、カスハラに該当し得ます。一方、要求自体は妥当でも、暴言や脅迫、土下座の強要、長時間の拘束、執拗な連絡など、伝え方や手段が行き過ぎていればカスハラになり得ます。

カスハラを見分けるポイント

たとえば「届いた商品が不良品なので交換してほしい」という要望は、通常は正当な申し入れです。しかし、同じ要求であっても「責任者を呼べ、土下座しろ」と大声で繰り返せば、結論は変わり得ます。反対に、言い方が丁寧でも、契約上まったく想定されていない特別な対応を求め続ける場合は、正当なクレームとは言い切れません。

カスハラ対策で一番避けたいのは、「お客様が言っていることだから、従業員が我慢すればよい」という運用です。同時に、企業側が苦情をすべてカスハラとして扱うことも適切ではありません。内容と伝え方の両面から判断する共通の基準を持つことが、現場の迷いを減らします。

カスハラ対策で企業がやるべきこと|対応ルールと悪質事案への備え

カスハラ対策では、方針を掲げるだけでは不十分で、実際に顧客対応をする従業員が、「この場面で何をしてよいか」を判断できる状態まで落とし込む必要があります。

例えば、管理監督者へすぐに報告する、一人で対応させない、やり取りを録音・録画する、十分に説明しても要求が続く場合は一定時間で対応を打ち切る、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社や法務部門へエスカレーションするといった対応が考えられます。

重要なのは、これらをすべて一律に行うことではなく、自社の業種や顧客対応の実態に応じて「何が起こった時に」「どこまで対応するか」を決めることです。

特にカスハラには、悪質なケースを抑止するための措置が求められています。どこからを「特に悪質」と判断するのか、誰がサービス提供の中止や出入り禁止、警察への通報などを判断するのか。ここを事前に決めておかなければ、いざというときに現場担当者が一人で抱えんでしまうことになります。

一方で、対策の「やりすぎ」にも注意が必要です。消費者の権利、障害者への合理的配慮、業法上のサービス提供義務などとの関係を確認しなければなりません。録音・録画を行う場合も、個人情報保護法等を踏まえた利用目的の特定や通知・公表が必要です。「毅然とした対応」と「適切な顧客対応」をどう両立するかが、実務上の重要な論点になります。

就活セクハラとは?対象となる求職者・場面・具体例

就活セクハラは、就職活動中やインターンシップ中の学生などに対する性的な言動を指します。対象は女性に限られず、同性に対するものや、性的指向、ジェンダーアイデンティティにかかわる言動も含まれます。

対象となるのは、求人への応募者、会社説明会や採用イベントの参加者、インターンシップ参加者、教育実習・看護実習中の学生などです。場面も採用面接や説明会に限らず、職場訪問、OB・OG訪問、SNSやオンラインでのやり取りも対象になり得ます。

ここで注意したいのは、人事部門が直接把握していない場面です。OB・OG訪問や、社員と求職者が個人のSNSで連絡を取り合うケースでは、会社の採用活動の外側に見えても、就職活動に関連するやり取りであれば問題が生じ得ます。また、面接官や人事担当者だけではなく、インターンを受け入れる現場の社員、パート・契約社員なども行為者になり得ます。

性的な質問や発言、性的な関係の要求、必要のない身体への接触、私的な食事へのしつこい誘いなどが典型例です。食事に誘うこと自体を一律に禁止するという話ではありません。相手が断っているにもかかわらず繰り返す、選考上の立場の差を背景に断りにくい状況をつくる、といった点が問題になります。

就活セクハラ対策で企業がやるべきこと|相談窓口と採用ルールを整える

就活セクハラ対策で実務上特に重要なのが、相談窓口を「求職者にも届く形」で用意することです。社内にハラスメント相談窓口があっても、応募者やインターン参加者が存在を知らなければ機能しません。

採用サイトやパンフレット、SNS、会社説明会など、求職者が目にする場所で窓口を案内し、「相談しても選考には影響しない」と明記することが大切です。また、人事担当者自身について相談したい場合も想定し、人事以外の相談先を用意しておくことも有効です。

同時に、採用活動のルールも明確にしておきます。面談の時間帯や場所を指定する、閉じた空間で行う場合は複数人で実施する、個人SNSでの連絡を避け会社指定のメールや採用管理システムを使う、といったルールです。個人の「距離を縮めるため」「場を和ませるため」という感覚に任せず、会社として許容される行動を示すことが予防につながります。

カスハラ・就活セクハラ対策で企業が共通して整備すべき仕組み

カスハラと就活セクハラでは対象となる場面は異なりますが、企業が整えるべき仕組みには多くの共通点があります。実務では、既存のハラスメント防止規程や相談体制を土台にしながら、今回の改正で不足する部分を追加していく考え方が取り組みやすいでしょう。

項目 カスハラ 就活セクハラ
方針の明確化 カスハラを許さず、労働者を保護する方針を示す 求職者等へのセクハラを禁止し、厳正に対処する方針を示す
相談窓口 既存窓口との兼用も可能。ただしカスハラも相談対象と明示する 求職者も使える窓口を用意し、社外にも届く形で周知する
発生時の対応 事実確認、被害者への配慮、再発防止。悪質事案の対処方針も整備 事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止
ルール整備 正当なクレームとの線引き、対応打ち切り・エスカレーション基準 面談場所・時間、複数人対応、連絡手段など採用活動のルール
周知対象 管理職・現場・パート・アルバイト等を含む従業員 従業員に加え、応募者・インターン参加者等の求職者

カスハラ対策はまず「方針・窓口・規程」から着手する

ハラスメント対策は範囲が多岐に渡り、「何から手を付ければよいか分からない」という企業もあると思います。すべてを一度に完璧にしようとすると、かえって動きづらくなります。まずは、会社としての方針を示すこと、相談窓口の担当者を決めること、ハラスメント防止規程の改定案を作ること。この3点から始めると整理しやすくなります。

そのうえで、カスハラについては現場の対処内容や悪質事案の判断基準、就活セクハラについては求職者向け窓口の周知や採用活動のルールを具体化していきます。研修も、管理職だけではなく、顧客対応をする現場、パート・アルバイト、採用に関わり得る社員まで対象を広げて考える必要があります。

ハラスメント対策を「現場任せ」にしない体制づくりが重要

今回の改正は、現場の接客スキルや個人の我慢に頼ってきた部分を、組織として扱うきっかけになると考えています。カスハラでは、正当な意見を受け止めながら、行き過ぎた要求や言動から従業員を守る。就活セクハラでは、採用する側とされる側の立場の差を前提に、求職者が安心して相談できる仕組みをつくる。どちらにも共通するのは、個人の判断に任せず、会社として基準と対応ルートを示すことです。

方針、窓口、規程を整え、そこから現場で使えるルールへ落とし込んでいくことが、施行後の定着に向けた現実的な第一歩になります。

※本記事は、2026年9月17日に開催した「ハラスメント対策はどう変わる? カスハラ・就活セクハラ対策の義務化と企業が備えるべき実務対応」の内容をもとに再構成したものです。ウェビナーでは、本記事で取り上げた内容に加えて、カスハラ・就活セクハラ対策についてより幅広い論点を解説しています。

本ウェビナーにご登壇いただいた新井将司氏が所属する、汐留社会保険労務士法人の詳細はこちら

汐留社会保険労務士法人

この記事の監修者

新井先生

汐留社会保険労務士法人 事業統括役員

新井将司

2011年に汐留社会保険労務士事務所(現・汐留社会保険労務士法人)へ企業コンサルタントとして入所。
労働・社会保険関係の手続きや給与計算をはじめ、人事制度の設計・提案、各種人事労務コンサルティングに従事し2014年に同法人役員へ就任。海外進出企業への支援、M&A、IPO、組織再編に伴う人事労務支援などを得意とする。

300社以上の労務管理に携わった経験をもとに、働き方改革を踏まえた労務管理の整備にも積極的に取り組んでいる。

監修書に「これ一冊でぜんぶわかる! 労働基準法 2026~2027年版」(ナツメ社、2026年)。

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