法務コラム
2026年の労働安全衛生法改正等をわかりやすく解説!ストレスチェック義務化など企業が対応すべきポイントとは?
投稿日:2026.10.16

労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。2025年に公布された改正法では、ストレスチェック制度の対象拡大、高年齢労働者の労災防止、個人事業者等への安全衛生対策などが盛り込まれ、2025年から2028年にかけて段階的に施行されます。
今回の一連の改正は内容が多岐にわたり、施行時期も項目ごとに異なります。そのため、改正項目を一つずつ追うだけでは、「自社に関係するのはどこか」「いつから対応が必要か」「何から着手すべきか」が見えにくくなりがちです。そのため、「全業種・全事業場に関係するもの」と「特定の業種・業務に関係するもの」に切り分けて整理することが重要です。
この記事では、2026年に施行される改正を中心に、実務上とくに影響が大きいポイントと企業側で確認しておきたい対応について整理します。
なお、今回の一連の改正は労働安全衛生法だけではなく作業環境測定法等も含まれています。
2026年前後に企業が対応すべき主な労働安全衛生・労務関連の法改正
今回の改正では、施行時期も対象範囲も項目ごとに異なります。中でも、ストレスチェック制度は、これまで努力義務だった労働者数50人未満の事業場にも実施義務が拡大されるため、影響が大きい改正といえます。高年齢労働者の労災防止や治療と就業の両立支援も、努力義務ではあるものの全業種が対象です。
一方、化学物質による健康障害防止対策や、ボイラー・クレーン等の機械に関する制度改正は、該当する物質や設備を扱う企業が中心となります。個人事業主等への安全衛生対策は全業種に関係し得ますが、実際には業務委託先と同一の場所で危険を伴う作業を行う企業ほど、優先して確認すべき内容です。
| 改正項目 | 主な対象 | ポイント | 施行時期 |
|---|---|---|---|
| メンタルヘルス対策の強化 | 労働者数50人未満を含むすべての事業場 | ストレスチェック制度を50人未満の事業場にも義務化 | 2028年4月1日 |
| 高年齢労働者の労災防止 | 全業種 | 高年齢労働者の特性に配慮した措置を努力義務化 | 2026年4月1日 |
| 個人事業主等への安全衛生対策 | 個人事業者等と同一場所で作業する事業者、注文者・元方事業者等 | 注文者・元方事業者等の措置対象を拡大、災害報告制度等を整備 | 項目により2025年5月14日~2027年4月1日 |
| 化学物質対策 | 主に化学物質を扱う業種 | SDS通知制度の履行確保、営業秘密に係る代替化学名等の通知、個人ばく露測定の精度担保など | 項目により2026年4月1日以降。SDS通知義務違反への罰則等は公布後5年以内に政令で定める日 |
| 機械等による労災防止 | 関係業種 | 特定機械等の審査・検査制度や不正防止対策を見直し | 2026年1月1日/4月1日 |
| 治療と就業の両立支援 | 全事業主 | 必要な措置を講じることを努力義務化 | 2026年4月1日 |
※施行時期は改正項目ごとに異なります。自社に関係する項目について、個別に確認することが重要です。
参考:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(厚生労働省)
ストレスチェックが50人未満の事業場にも義務化される
これまでストレスチェック制度の導入は、従業員50人未満の事業場では努力義務でした。今回の改正により、50人未満を含むすべての事業場で義務化されます。ここで重要なのは、会社全体の人数ではなく「事業場」単位で考える点です。たとえば本社30人、支社30人という企業であっても、従来は各事業場が50人未満であれば義務の対象外でしたが、改正後はそれぞれの事業場で対応が必要になります。
50人未満の事業場へのストレスチェック義務化は、2028年4月1日から施行されます。小規模事業場向けのマニュアルも公表されているため、対象になる企業は施行直前まで待つのではなく、実施体制や社内ルールを先に整理しておくとよいでしょう。
対象者は「常時使用する労働者」で、基本的には一般定期健康診断の対象者と同じ考え方です。有期雇用であっても、契約期間が1年以上である場合や、契約更新により1年以上使用されることが予定されている場合などに加え、1週間の労働時間数が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であることなどの要件を満たす場合は対象となります。また、派遣労働者のストレスチェックは派遣元に実施義務があります。
参考:「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表します(厚生労働省)
ストレスチェックは「実施」だけでなく、情報管理と事後対応まで設計する
ストレスチェック制度は、調査票を配って回収すれば終わりというものではありません。制度の導入方針を表明し、労働者の意見を聴いたうえで社内ルールを作成し、実施体制や高ストレス者の選定方法、医師による面接指導の依頼先まで決めておく必要があります。
とくに50人未満の事業場では、プライバシー保護の観点から、実務担当を外部機関に委託することが推奨されています。自社で実施する場合には、担当者が同僚の要配慮個人情報を扱うことになるため、情報管理にはより慎重な運用が求められます。
また、労働者本人にはストレスチェックの受検義務は課されていません。未受検者への受検勧奨は行えますが、受検しなかったことを理由に不利益な取扱いをしないことも重要です。高ストレス者については、本人から申し出があった場合に医師の面接指導を行い、その意見を踏まえて必要な就業上の措置を検討します。

▲ストレスチェック制度の導入から事後対応までの流れ(セミナー資料より)
集団ごとの集計・分析は努力義務ですが、受検者が10人を下回る場合には個人が特定されるおそれがあるため、原則として集団分析結果の提供を受けない扱いとされています。制度を設計する際は、「何を実施するか」だけでなく、「誰が情報を見るか」「どこまで会社が取得するか」まで決めておくことが大切です。
高年齢労働者の労災防止対策が努力義務に
2026年4月1日から、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理その他の必要な措置を講じることが、事業者の努力義務となりました。背景には、高年齢労働者の労働災害が増えており、他の世代と比べて災害発生率が高く、被災した場合の休業期間も長いという事情があります。
実務では、まず危険源を洗い出し、リスクアセスメントによって対策の優先順位をつけます。そのうえで、照度の確保、階段の手すりや段差の解消、防滑素材の採用、暑熱への対応、重量物の取扱いなど、身体機能の低下を補う職場環境の改善を検討します。
同時に、勤務時間や作業スピード、休憩、マルチタスクの負担といった働き方の面も見直す必要があります。高年齢労働者と一括りにせず、健康や体力の状況を把握したうえで、個々の状況に応じた就業上の措置を考えることがポイントです。
個人事業主も安全衛生対策の対象へ。発注側・現場管理側の確認が必要になる
今回の改正では、労働者と同じ場所で働く個人事業者等を、労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として位置づける方向がより明確になりました。ここでいう個人事業者等には、個人事業者だけでなく、中小事業者の代表者や役員も含まれます。
まず、注文者が施工方法、作業方法、工期、納期などについて、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないよう配慮する規定は、建設工事以外の仕事を他人に請け負わせる場合にも広く適用されることが明確化されました。さらに、混在作業場所における元方事業者の指導・連絡調整等の対象も、個人事業者等を含む作業従事者へ拡大されています。
2027年1月1日からは、個人事業者等が労働者と同一の場所での就業に伴う事故等により死亡、または4日以上休業した場合について、業務上災害を報告する制度も始まります。個人事業主への業務委託がある企業は、「雇用していないから労災対応の対象外」と考えるのではなく、発注条件や現場での安全管理のあり方を確認しておく必要があります。

▲個人事業者等への安全衛生対策の対象拡大イメージ
化学物質・機械に関する労働安全衛生法及び作業環境測定法の改正も2026年から順次施行
化学物質を扱う企業では、危険性・有害性情報の表示やSDS(安全データシート)の交付、リスクアセスメントの対象となる化学物質が、2026年4月に約2,900物質へ拡大される点に注意が必要です。SDSの通知義務違反に対する罰則の新設や、通知事項を変更した場合の再通知義務化も予定されています。
また、営業秘密に当たる成分については、一定の条件のもとで代替化学品名等による通知が認められる一方、実際の成分名等の記録・保存が必要になります。個人ばく露測定についても、2026年10月1日から有資格者が作業環境測定基準に従って実施することが義務となります。
ボイラー、クレーン等の特定機械を扱う企業では、製造許可や製造時等検査の一部について登録民間機関が行えるようになるなど、制度が見直されています。フォークリフト等に関する特定自主検査や技能講習についても不正防止対策が強化されているため、該当する設備や業務がある企業は、担当部署と施行済みの項目を確認しておくとよいでしょう。
治療と就業の両立支援も2026年4月から努力義務に
補足としてあわせて押さえておきたいのが、治療と就業の両立支援です。これは労働安全衛生法ではなく、改正労働施策総合推進法に基づくもので、2026年4月1日から、職場における治療と就業の両立支援に必要な措置を講じることが事業主の努力義務となりました。
基本となるのは、労働者本人からの両立支援の申出をきっかけに取り組むことです。会社側が一方的に就業を求めるのではなく、本人の意向を確認したうえで、研修や相談窓口、社内支援体制、休暇・勤務制度などを整備します。具体例としては、時間単位の有給休暇、傷病休暇、時差出勤、テレワーク、時短勤務、試し出勤制度などが挙げられています。
実際の支援内容は、主治医の意見書や産業医の意見も踏まえ、本人と話し合ったうえで事業主が決定します。メンタルヘルス対策とも重なる部分があるため、人事・労務だけでなく、法務や現場の管理者も含めて制度の運用を確認しておくことが大切です。
「自社に関係するか」「いつまでに何をするか」を一覧化しておく
今回の改正は、すべての企業が同じタイミングで同じ対応をするものではありません。まずは改正項目ごとに、自社が対象となるかを切り分け、そのうえで施行日と必要な実務対応を一覧化しておくと整理しやすくなります。
特に、ストレスチェック制度の義務化は全事業場に影響するため、まだ制度を導入していない50人未満の事業場では早めの準備が必要です。高年齢労働者の安全衛生対策や治療と就業の両立支援についても、努力義務だから後回しにするのではなく、既存の人事制度・安全衛生体制でどこまで対応できているかを確認する機会にしていただければと思います。
※本記事は、2026年3月6日に開催したセミナー「労働安全衛生法改正に関する留意点」の内容をもとに再構成したものです。
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