投稿日:2026.08.12

リーガルリサーチを生成AIで効率化するには? 4つの工程に分解する法令調査の設計方法

法務部門に寄せられる相談は、最初から法的検討に必要な情報がそろっているとは限りません。断片的な相談内容から前提を補い、検討すべき論点を洗い出し、法令・判例・ガイドラインなどの情報を集め、それらを比較しながら結論を組み立てていく必要があります。

生成AIを使えば、この負担をすぐに減らせるようにも見えます。しかし、実際に試してみると、聞き方によって答えが変わる、重要な論点が抜ける、そのまま実務で使ってよいか判断できない、といった問題が起こりがちです。

こうした不安定さの原因は、生成AIの性能だけではなく、リーガルリサーチという業務を一つの作業としてAIに渡してしまうことにあります。大切なのは、万能なプロンプトを探すことではありません。調査業務をいくつかの工程に分け、それぞれでAIに何を任せ、どこで人が確認するかを設計することです。

この記事では生成AIを活用してリーガルリサーチ業務を効率化させるための考え方について解説します。

簡易なプロンプトでは、リーガルリサーチが安定しない理由

リーガルリサーチの相談では、事業部から届く情報が断片的で、前提条件が十分に整理されていないうえに、調査対象は法令、判例、ガイドライン、行政資料、実務慣行など多層的です。不完全な情報を出発点にしながら、必要な前提を確認し、調査の深さや範囲を判断しなければなりません。

従来、この一連の進め方は担当者の経験や検索スキルに依存しやすく、調査プロセスや知見も属人化しがちでした。その結果、本来時間をかけたい判断や助言よりも、情報を探し、読み、整理する作業に多くの時間が使われています。

ここで生成AIに「結論、根拠、例外、追加確認事項を出してください」と一度に依頼しても、出力は必ずしも安定しません。事実をどう捉えるか、どの論点を検討するか、どの法源を重視するか、どの評価軸で判断するかという調査の構造まで、すべてAI任せになってしまうためです。

業務が効率化されたと言えるのは、単に一度に早く答えが出た状態ではありません。同じ品質のアウトプットを、安定して、再現性をもって得られる状態です。そのためには、AIに渡す前に、人間側で業務の流れを構造化しておく必要があります。

一つのプロンプトに任せず、調査業務を4つの工程に分ける

リーガルリサーチは、一つの作業に見えて、実際には性質の異なる作業の集合体です。今回は、これを次の4工程に分けて考えます。

リーガルリサーチを4工程に分けた全体像

最初の「事実整理」では、相談内容を法的検討に耐えられる事実ベースのメモへ変換します。次の「論点抽出」では、整理された事実から検討すべき法的論点を網羅的に洗い出します。「法源探索」では、各論点の判断根拠となる法令、判例、ガイドラインなどを集め、読み解きます。最後の「法務分析」では、整理された法源の評価軸に事実を当てはめ、各論点のリスクを評価します。

工程ごとに目的が異なる以上、使うプロンプトも分けるべきです。各工程のアウトプットを必要に応じて人が修正し、次の工程へ渡すことで、AIの使い方を毎回同じ流れに固定できます。これが出力のブレを小さくする基本的な考え方です。

事実整理工程におけるポイント

事業部からの相談文には、客観的な事実だけでなく、相談者の評価や印象、未確定の情報が混在しています。この段階でAIに適法性を判断させると、不十分な前提をAIが推測で補い、その後の検討全体がずれるおそれがあります。

事実整理の工程でAIに担わせるのは、相談内容を、関係主体、想定されている行為、相談者の評価、不明点・未確定事項に分けることです。結論を述べない、推測で穴埋めしない、法令名や条文を特定しない、といった制約を明確にします。

この整理によって、「何が分かっていて、何が足りないのか」が見えるようになります。不足情報は、事業部への追加質問としてそのまま活用できます。毎回確認するには負担が大きい固有情報がある場合には、社内ルール、既存契約、取引条件などをあらかじめ参照情報として設定し、相談文との関係を整理させる方法も有効です。

ただし、参照情報から補った内容と相談文に明示された内容は、区別して表示する必要があります。情報源を分けておくことで、後の工程で誤った前提に依存するリスクを下げられます。

論点抽出工程におけるポイント

事実が整理されても、それがどの法的領域とつながるのかはまだ確定していません。論点抽出の目的は、結論を出すことではなく、後続の調査や分析に漏れが生じないよう、検討すべき論点の全体像を把握することです。

この工程で、いきなり特定の法律名や条文から考え始めると、担当者やAIが思いついた範囲に検討が偏りやすくなります。そこで、事実を起点に、次のような切り口で複数の角度から検証する視点をあらかじめ設定しておきます。

問いかけ 検証する角度
契約違反って言われない? 成立済みの合意からの逸脱という角度
立場を利用してない? 当事者関係値、市場競争関係の角度
消費者に対する配慮は? 消費者保護の角度
市場の商慣習に適合してる? 商慣習適合性の角度
上場会社として説明できる? ガバナンス、コンプライアンスの角度
当社の業法に適合する? 特殊な業法的適合性の角度

これらの角度を最初にカスタマイズして並べておき、事実関係をこの全軸に総当たりさせます。関係がない軸については「ここからは論点は抽出できませんでした」という回答をもらえばよいので、比較的漏れなく、すべての角度から論点を拾い出す設計にしやすくなります。

さらに、AIの出力には、論点の概要だけでなく、どの事実がその論点を生じさせたのか、なぜその法令や制度が関係し得るのかを併記させます。論点が検出された理由を見える形にすることで、人がレビューしやすくなり、出力の安定性も高まります。

法源探索工程におけるポイント

法源探索の実務上の課題は、必要な情報が見つからないことよりも、関連し得る情報が多すぎることにあります。条文、判例、ガイドライン、行政資料、解説記事は比較的容易に大量に見つかります。問題は、そのすべてを読むことが現実的ではなく、どの部分が判断に直結するのか分かりにくいことです。

汎用生成AIに備わっているディープリサーチのような機能は、調査の当たりを付けるうえでは有用です。一方、実際の判断根拠としてそのまま依拠するには、正確性やハルシネーションへの注意が必要です。法源探索で重要なのは、AIに未知の法源を自由に探させることではなく、信頼できる方法で集めた資料を効率よく読み、比較し、整理する点にあります。

ツールごとの役割は、次のように分けて考えられます。

ツール・仕組み 主な役割
内部情報検索型AI 過去事例や社内固有情報を抽出する
リーガルリサーチ型リーガルテック 関連する法源を網羅的に洗い出す
Notebook型AI 選別された資料を精読し、資料間の関係や引用元を整理する
汎用生成AI 複数の法源を横断的に比較し、判断基準を明確にする

NotebookLMのような「与えられた資料を前提に深く読む」タイプのAIは、読むべき資料が確定した後の工程で特に力を発揮します。限定された資料集合を前提に、資料を精読し、相互の関係を把握し、引用元を示しながら整理できるためです。検索を置き換えるというより、網羅的な探索が終わった後の精読作業を支援するものと捉えると、実務に組み込みやすくなります。

関連記事:リーガルリサーチとは?基本手順と国内の主要サービスを紹介

法務分析におけるポイント

法源探索によって、各論点についてどのような評価軸があるかが整理された後、初めて法務分析に進みます。この工程では、事実整理で抽出した事実を、それぞれの評価軸に当てはめ、法的なリスクを検討します。

例えば、食品の通信販売に関する広告であれば、景品表示法の観点では「表示内容が誤認を招かないか」、特定商取引法の観点では「取引条件が正確かつ十分に示されているか」、食品に関する法令・ガイドラインの観点では「表示内容が安全性・適法性の枠内にあるか」といった評価軸が考えられます。

AIには、法源ごとに評価点、現状、リスク程度、判断理由を整理させると、比較しやすい形になります。

<法務分析の判定表の例>

法源 評価点 現状の広告案 リスク程度 コメント(判断理由)
景品表示法 合理的根拠 明示なし 改善表現が具体的である一方、根拠が示されていない
特定商取引法 解約条件 表記が小さい 表示義務違反とまでは言い切れないが、視認性に注意が必要
食品関連法令 効能表現 効能に言及 医薬品的な効能表現との境界を慎重に確認する必要がある

この表は、AIが最終判断を行うためのものではありません。どの法源の、どの評価軸に照らして、どの事実がリスクとなり得るのかを可視化し、人が判断するための材料を整えるものです。整理の形式を固定しておけば、案件ごとの比較やレビューもしやすくなります。

最後のプロセスをAIにやらせすぎると、普通に間違えることも往々にしてあります。そのため法務分析のプロセスは、最終的な意見形成の1つ手前の段階、あくまで整理資料をつくるところまでにとどめておくほうが安全です。

生成AIの限界を前提に、判断主体は人のままにする

生成AIには、処理できるテキスト量に限界があり、過去のやり取りを常に正確に記憶するわけではありません。プロンプトの表現に敏感で、モデルが更新されれば同じ指示でも出力が変わる可能性があります。

この性質を考えると、AIを判断主体として扱うことは適切ではありません。AIが得意なのは、前処理、分類、比較、構造化です。事実が正しいか、重要な法源がそろっているか、どのリスクを受け入れるか、事業上どのような助言をするかは、引き続き人が判断する必要があります。

また、各工程の間に人の確認を入れることは、単なる安全策ではありません。事実整理の段階で誤りを直せば、その誤りが論点抽出、法源探索、法務分析へ連鎖することを防げます。工程を分けることは、AIの出力を安定させると同時に、レビューすべき場所を明確にする設計でもあります。

リーガルリサーチのAI活用は、プロンプトより先に業務設計から始める

生成AIでリーガルリサーチを効率化しようとすると、つい高性能なモデルや精巧なプロンプトに目が向きます。しかし、実務で再現性のある成果を得るためには、まず調査業務を分解し、それぞれの工程の目的と入出力を定義することが欠かせません。

  • 事実整理では判断させず、不足情報を見えるようにする
  • 論点抽出では複数の視点から検証し、論点が生じた理由を明示する
  • 法源探索では信頼できる方法で集めた資料をAIに精読・比較させる
  • 法務分析では評価軸と事実を対応させ、人が判断しやすい形に整える

一つのプロンプトですべてを解決しようとするのではなく、このように工程ごとにAIと人の役割を組み直すこと。それが、調査の精度を保ちながら、読む・整理する負担を減らすための現実的な第一歩だと考えています。

※本記事は、2026年2月9日に開催したセミナー「生成AIで変わるリーガルリサーチ 〜論点抽出から評価の統合まで、法令調査を構造化するAI活用術〜」の内容をもとに再構成したものです。アーカイブ動画はこちらから視聴可能です。

この記事の監修者

山本 俊

GVA TECH株式会社 代表取締役
GVA法律事務所 創業者

山本 俊

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。AI法務アシスタント、法務データ基盤、AI契約レビュー、契約管理機能が搭載されている全社を支える法務OS「OLGA」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。

Xアカウント:@gvashunyamamoto

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