法務コラム
契約審査はなぜ属人化する?AIで事業部とのコミュニケーション工数を削減する「前捌き自動化」の実践
投稿日:2026.08.17

事業部から「これ、レビューお願いします」と契約書だけが送られてくる。法務側は、取引の背景や希望納期、相手方との関係などを一つずつ確認し、ようやく審査に着手する。そんなやり取りに心当たりはないでしょうか。
法務はもともと人数が限られている一方で、契約審査や法律相談など対応すべき仕事は多くあります。そのなかで、判断そのものではなく「判断するための情報を集めること」に時間を取られているケースは少なくありません。
そこで今回考えたいのが、法務に案件が届く前の段階をAIで整える「前捌き自動化」です。事業部から届いた依頼をAIが整理し、不足情報を聞き取り、必要に応じて案件を振り分ける。こうした仕組みをつくることで、法務と事業部の双方が何度も情報をやり取りする負担を減らせる可能性があります。
法務相談に時間がかかる原因は、契約審査の前段階にある情報不足
法務がパンクする理由として、まず考えたいのが「初期相談の情報不足」です。事業部から「この契約書をレビューしてください」「この施策は法的に問題ありませんか」と相談を受けても、法務が判断するために必要な情報が最初からそろっているとは限りません。
これは事業部側に問題があるという話ではありません。法務は専門性の高い業務なので、「法務が何を知りたいのか」を事業部側があらかじめ想像するのは難しいものです。その結果、法務から「この点はどうなっていますか」「もう少し詳しく教えてください」と確認し、事業部が回答し、その回答を受けてまた追加で確認する、といったやり取りが発生します。
このキャッチボールは、一つひとつを見ると小さな作業です。しかし案件数が増えるほど、メールやチャットでの確認が積み重なり、法務の時間は細かく分断されます。法務が本来の仕事に入る前の段階で、すでに相当な工数がかかってしまいます。

AIが契約審査の依頼を事前に整理する「前捌き自動化」
この情報のキャッチボールを減らすための考え方が「前捌き自動化」です。事業部から依頼が来た時点で、まず一度AIに読んでもらい、足りていない情報や内容の整合性を整理してもらう。そのうえで初めて法務が対応に入る、というイメージです。
前捌き自動化は大きく2つのメリットがあります。ひとつは、何度も確認のやり取りをする工数が減ること。もうひとつは、事業スピードの向上です。法務はどうしても「事業を止める部署」だと見られがちですが、それはリスクがあるからこそ止めているのであって、事業部からすればスピード感が失われているように映ってしまう。情報が出揃った状態から着手できれば、法務側も素早く対応でき、事業部側の納得感にもつながります。
OLGA(オルガ)を活用した前捌きの実践
ここからは、実際にAIを使ってどんなことができるのかを2つの方法でご紹介します。ひとつは、弊社が提供している「OLGA(オルガ)」というツールでできる前捌きです。
たとえば、よくあるケースとして事業部から「これレビューお願いします」という一文と秘密保持契約書だけがメールで送られてくることがあります。これだけでは、契約の背景や希望納期、相手方、利用目的など、審査に必要な情報が足りません。
OLGAでは、この簡潔な依頼を受けると、あらかじめ設定されている依頼フォームの項目と照らし合わせ、AIが不足している情報を特定します。そして、法務担当者が手を動かす前に、AIから事業部へ追加質問を送ります。この追加質問を送るスピードは意外と重要で、依頼直後にAIから質問が届けば、事業部は案件の内容をまだ覚えている状態で回答できます。
事業部はメールに返信する形で、取引内容やスケジュールなどを回答します。添付ファイルを追加することもできます。AIは回答を受け取るたびに情報を整理し、まだ不足している項目があれば追加で質問します。必要な情報がそろうまで、事業部とAIの間でやり取りが続く仕組みです。

法務は、情報がそろうまで案件に着手しなくてよい
前捌きで大切なのは、法務が「AIが何をしているのか分からない」状態にならないことです。OLGAでは、AIがヒアリングしている途中の案件も法務側の一覧に表示されますが、ヒアリング中であることが分かるようになっています。法務担当者は、まだ情報がそろっていない案件だと認識できるため、その時点で無理に着手する必要はありません。
案件画面では、契約書や事業部の回答内容が整理され、AIと事業部のやり取りも履歴として確認できます。AIが内容を誤って解釈した場合でも、事業部が実際にどう回答していたのかをさかのぼって確認できます。
最終的にヒアリングが完了すると、不足情報が補われた状態で法務に案件が渡ります。そこから担当者をアサインし、審査や法律判断に入る。つまり、これまで法務が担っていた「依頼内容を整える仕事」を、法務の手前に移すことができます。
Geminiで契約審査の依頼を効率化する方法
前捌きは、専用のリーガルテックがなければ始められないわけではありません。社内で利用できる生成AIを使い、まず小さく試してみることもできます。
今回はGoogle Geminiの「Gem」を使い、法務への依頼内容を整理する仕組みを試作しました。事業部が簡単な依頼内容と契約書を入力すると、AIが契約書の内容も確認しながら、不足している情報を質問します。回答がそろうと、「法務依頼用チケット」のような形で案件名、相手方、希望納期、取引内容などを整理し、そのまま法務へ送れる文面を作成します。
この仕組みは、事業部側で使う設計にもできますし、すでに法務へ届いてしまった相談を法務担当者がAIに入れ、「事業部に何を聞き返せばよいか」を質問表として整理する使い方もできます。まずは現在の業務フローを大きく変えずに、確認漏れや質問作成の負担を減らすところから始めるのもよいと思います。

FAQやセルフチェックまでつなげれば、事業部で完結できる案件を増やせる
生成AIを使った前捌きは、不足情報を聞くだけでなく、もう少し発展させて「法務ポータル」として、事業部からの問い合わせ内容に応じて複数のAIや仕組みに振り分けることもできます。
たとえば「契約書の押印権限は誰ですか」といった、法務によく寄せられる質問であれば、あらかじめ用意したFAQを参照してその場で回答できます。また、契約書がすでにある場合はセルフチェック用のAIに案内し、契約書のひな型が欲しい場合はひな型検索の仕組みに案内する、といった分岐も考えられます。
セルフチェックの例では、契約書のリスクを「高・中・低」の3段階で評価し、リスクが高い項目があれば法務へ相談する、なければ事業部がリスクを確認したうえで進めるというルールを設定しました。ここまでできれば、「法務に相談するかどうかを判断するために法務へ相談する」という状態を減らせます。
もちろん、どこまで事業部判断を認めるかは企業ごとのリスクポリシーによって変わります。重要なのは、AIに自由に判断させることではなく、法務が決めたFAQや判断基準、エスカレーション条件を仕組みとして与えることです。
前捌きは、法務の判断をAIに置き換えるのではなく「判断前の工数」を減らす
生成AIというと、契約書レビューや法律相談への回答そのものを自動化する話に目が向きがちです。ただ、実際の法務業務には、その手前に多くのコミュニケーションがあります。
「情報が足りないので聞き返す」「相談内容を整理する」「法務に持ってくるべき案件かを見極める」。こうした前段階の作業をAIに任せるだけでも、法務の仕事の進め方は大きく変わる可能性があります。
まずは、日々の相談のなかで「毎回同じことを聞いている」「この質問への回答はFAQで返せる」「この契約なら一定の条件のもとで事業部でも確認できる」と感じる場面を洗い出してみてください。そこが、前捌き自動化を始める候補になります。
法務がすべての相談を抱え込むのではなく、事業部が自分たちで進められる領域を増やし、本当に法務の判断が必要な案件に集中する。そのための「入り口」をつくり直すことが、AIを法務業務に活かす一つの実践的な方法となります。
※本記事は、2026年3月24日に実施したウェビナー「なぜあなたの会社の法務はパンクするのか? AIで事業部とのコミュニケーション工数を削減する『前捌き自動化』の実践」の内容をもとに再構成したものです。
よくある質問
Q1. 「前捌き(自動化)」とは何ですか?
前捌き自動化とは、事業部からの依頼が法務に届く前の段階で、AIが依頼内容を整理する仕組みです。事業部からの依頼を読み取り、審査や判断に必要な情報が不足していないかを確認し、必要であれば事業部に追加の質問を行います。情報が出揃った状態で法務に案件が渡るため、法務が対応前に何度も確認のやり取りをする工数を減らせます。
Q2. OLGA(オルガ)とは何ですか?
OLGA(オルガ)とは、案件管理、契約レビュー、締結済み契約書管理の機能をシームレスにつなぎ、契約データをライフサイクル全体で一元管理できる法務オートメーションツールです。そのなかでも「AI自動ヒアリング」機能では、依頼内容を事前に設定した項目と照らし合わせ、不足している情報をAIが特定して事業部に追加質問します。法務担当者は、情報が出揃うまで案件に着手する必要がなく、ヒアリングの状況も一覧で確認できます。
Q3. 前捌きを始めるには、専用のリーガルテックが必要ですか?
必須ではありません。社内で利用できる生成AIを使い、事業部からの依頼内容を整理する仕組みを小さく試すこともできます。まずは既存の業務フローを大きく変えずに、確認漏れや質問作成の負担を減らすところから始める方法もあります。
Q4. 契約審査の属人化を解消するには、何から始めればよいですか?
まずは日々の相談を振り返り、「毎回同じことを聞いている」「この質問はFAQで回答できる」「一定の条件を満たせば事業部側でも判断できる」といった場面を洗い出すことが出発点になります。属人化の解消は、法務が全ての相談を抱え込む状態から、判断が本当に必要な案件に集中できる状態へ移していくプロセスと言えます。
Q5. 事業部にどこまで契約審査の判断を任せてよいのでしょうか?
どこまで事業部の判断を認めるかは、企業ごとのリスクポリシーによって異なります。重要なのは、AIに自由に判断させることではなく、法務があらかじめ定めたFAQ・判断基準・エスカレーション条件を仕組みとして与えることです。たとえば契約書のリスクを「高・中・低」の3段階で評価し、リスクが高い項目があれば法務へ相談する、なければ事業部の判断で進める、といったルールを設定する方法があります。
